ここ数年、日本では多くの大企業が新たな技術の種やビジネスの発掘に向けスタートアップ企業に投資してきました。またその延長として CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を自社で構える会社も増えてきており、大企業とベンチャー企業のコラボが新たなビジネスモデルの創出に不可欠だと提唱する経済学者さえもいます。

スウェーデンでも CVC の流れは年々増えており、とりわけハイテク産業ではこの流れは急速に加速しています。スウェーデンのテックジャイアント Ericsson もその1つで、停滞したマーケットを打破もしくはそれにとって代わる新たなビジネスの発見に躍起になっています。数年前彼らが設立した社内スタートアップインキュベーター Ericsson Garage を取材してきましたので、今日はそちらをシェアしたいと思います。

Ericsson

Ericsson は1876年にスウェーデン・ストックホルムで創業したネットワーク通信機器のグローバルメーカーです。現在世界180ヵ国でビジネスを展開し、特許数39,000、110,000人もの従業員を抱えるスウェーデンを代表する大企業です。

エリクソンはもともと携帯電話の製造メーカーとして日本でも知られていましたが(ソニーエリクソン)、隣国フィンランドのNokiaなどに破れマーケットから数年前に撤退しており、近年、停滞したパフォーマンスから抜け出せず数年人規模でリストラを行なうなどパッとしない話が多いのが現状です。さらに競争で加速する開発コストの増加が彼らの財務諸表を痛め、複数のマーケットでリーディングポジションを失ってきました。

実際、現地の学生と話してみてもそれほど就職先として魅力ある企業としては認識されていないようでした。

Ericsson Garage

住所: Torshamnsgatan 21, Stockholm, Sweden
最寄駅: 地下鉄 Kista または 普通電車 Helenelund 駅

Ericsson Garage はエリクソン本社最新ビル the Torshamnsgatan 21 の1階にオフィスを構え、会社の中でも重要なポジションにあることがうかがえます。ちなみにこのビルの中、めちゃくちゃ綺麗で異空間です。建設費かかってます。本社受付の方の説明によれば、社員同士が部署をまたいで気軽にミーティングを行えるように広々とした空間に設計されたようです。また、外部の人間も許可をもらえば出入りでき、自由な空間で外部との交流を重視したつくりになっています。

そしてこの綺麗で広々とした空間を奥に進むとひっそりとまるで秘密基地のように佇むのが Ericsson Garage です。このエリクソンガレージのメンバーになるためには、新たな技術やビジネスのアイディアを持つ社員が2〜3人のチームを編成し、会社へピッチする必要があります。その後、発表したビジネスプランが承認されれば、このガレージオフィスでフルタイム新たなビジネス創出に取り組むことが許されます(もちろんお給料も支払われるそうです)。

残念ながらこちらのエリクソンガレージはアイディアを持つ従業員しか応募することが出来ず、外部からアイディアを持ち寄って加入というのは認めていないそうです。一応、将来的にその可能性の有無を尋ねるとキッパリ「今のところなし」という回答が返ってきました。

Ericsson Garage 内では、リーンスタートアップのコンセプトに基づき、短期間の発展サイクルで顧客、エンドユーザー、パートナーとともに学びの中で問題解決を実行していき真の顧客ニーズを探っていく手法を取っています。その結果(マネージャーへのプレゼン)次第でプロジェクトの打ち切りや新たな追加投資の有無が決まります。今回 Ericsson Garage をガイドして下さったのが Johan Sjöberg さん(マネージャー)なのですが、年々、ガレージを訪れる訪問者は増えておりその注目度は高まっているようです。

また、新たな技術の創出が将来の会社の競争力を左右すると信じていることから、従業員のチャレンジ精神を鼓舞する目的でこの Ericsson Garage がオープンされたそうです。ゆえに、エリクソン本体にとってこのエリクソンガレージの位置づけは非常に重要だと Johan さんは言っていました。

会社がガレージに求めているのはスタートアップインキュベーター&コーワーキンスペースの役割を果たしつつ、より多くの MVP(minimal viable products=最低限必要な仕様だけをのせたプロトタイプ製品)の開発を行なうことだそうです。ガレージ内の雰囲気はいくつかのチームが隣り合わせでプロジェクトに取り組んでいる様子で、一般的なインキュベーターに所属するスタートアップチームよりも他チームとの交流が多いような感じがしました。

インキュベーションプロセス

エリクソンの社員はガレージのメンバーになったその瞬間から自分の通常の仕事から離れ、ベンチャープロジェクトに専念することが出来ます。プロジェクトの進め方として3つのフェーズが定められており、

1. 機会の発見
・自分達が作るMVP (minimal viable product) の定義。
・プロジェクトをサポートするエリクソン内外部のパートナーの決定。

2. ガレージエントリー選考会
・ここで承認されたプロジェクトは MVP を発展させる機会を得る。

3. シニアマネジメントへのデモ(インキュベーションの結果報告)
・シニアマネジメント選考委員はプロジェクトが次のステップにいくためのアドバイスをする。その後、プロジェクトはスピンアウトして独立するか、エリクソン内部のビジネスユニットが引き継ぐか、子会社に引き渡されるかが決まる(プロジェクトの中止も含め)。

プロジェクトは通常3〜9ヶ月間インキュベートされます。ここで僕がした質問は、もしプロジェクトの中断が決まったが、メンバーがエリクソンをやめてそのプロジェクトの事業開発を続けたい場合、何か縛りのようなものはあるか?でした。この場合は、エリクソンが将来その事業が競争相手になる可能性を秘めているか否かを調査し、決定するようです。レベルによって結論は決まってくるようですが、現在のところ厳しい制限は設けてないとのことでした。