4回にわたり、知らないおっさんの本のメモにお付き合いいただきありがとうございます。渡瑞(スウェーデンに渡る)前、僕なりにスウェーデンパラドックスをまとめた回はこれで最後になります。

前回までの1〜3では、

 1. スウェーデンの国民を守ろうとする本気度

 2. それを実現するための具体的な社会制度

 3. それを土台から支える経済改革になぜ至ったか

をさわりだけお話ししました。今日はより具体的な税制、賃金体系、産官学のサポート体制などをまとめたものになります。

企業活動を政府が税制等で後押し ︎

 ・法人税率: 26.3% (2009~) & 諸手当負担がほとんど無い
*福利厚生費なし、扶養手当なし、通勤手当等がない(=国の社会保障制度が充実しているため)

→ 企業が従業員に対して独自の福利厚生の制度を持つのではなく、国が一元的に管理する社会保険制度が、働く人々全員をカバーしている
→ 病気で休めば、2週間後から給与カットされ疾病保険の支払い義務も国に映る ︎

 ・体内投資を呼び込むために、グループ内配当金に対する課税控除、税配分準備金制度による課税控除、株式配当金、キャピタル・ゲインへの課税控除など持株会社設立に対する様々な優遇税制があるほか、高度外国人材に対する所得税減税など独自の税制も有する。

→ グローバリゼーションの中で流動する資本を国内に止めたりするため、体内投資を呼び込むために導入されたものだが、結果として社会保険料の重い負担を償う役割を果たす解雇規制がゆるい(一般的に法制上は厳しいと指摘され、OECDなど国際機関からは常に規制緩和を求められてきた)
→ しかし、現実的には事業が立ち行かなくなれば柔軟に解雇でき、それほど厳しくない
→ 「事業の縮小や改編に伴って余剰人員を解雇する必要がある」と判断すれば正社員の解雇が頻繁に行われる(特に不況時)
→ 原材料を調達するのと同じ感覚で労働者を雇用し、生産活動を行う。故に仕事がなくなれば解雇も容易に行う
→ 経営上の判断に対して裁判所が口を挟むことはない
→ よって解雇が当たり前に生じる厳しい競争社会の側面を持つスウェーデンの現実がある ︎

これは「雇用責任は企業ではなく政府にある」のコンセプトのもと、失業しても手厚い社会保障が「人間を守る」 ︎

健康保険組合もない、ブルーカラーの解雇については退職金も支払われない(日本もほぼ同じ?)

→ 結果、労働コスト(賃金+福利厚生費+税・社会保険料)は、イギリス・ドイツ等他の欧州諸国と比べても低い(日本とほぼ同水準 109) ︎

スウェーデン投資庁の対外投資呼び込みアピール・ポイントとしている →生活の安定の保障が「人々が変化を受け入れやすい」、「リスクを取りやすい」社会へと導いている

産官学の積極協力 ︎

ストックホルム郊外にあるシスタ・サイエンス・シティ。テクノロジー関連企業の村のようになっている

 ・戦略的研究開発
→ 研究開発支出の対GDP比率 3.75% (2008) = OECD諸国中第1位(日本も3.44%と高いが画期的なイノベーションに結びつかない) ︎

 ・シスタ・サイエンス・シティ(スウェーデンのシリコンバレー)
→ 世界中の一流企業が集積 ︎ IT群(エリクソン、IBM、Microsoft、オラクル、アップル、ノキア) ︎

 ・ベンチャー企業群(新しい技術を有する)
→ ストックホルム大学、王立工科大学、カロリンスカ研究所等の教育・研究機関が集積
→ ウプサラ大学を中心とした産業クラスター がバイオテクノロジー分野の研究開発拠点となっている ︎
→ 南ではルンド大学とIDEAの協業により、世界をリードする研究開発とイノベーションが行われている

成長政策とイノベーション促進政策 ︎

ストックホルムに拠点を構える大学でベンチャー企業の創出を目指すStockholm School of Entrepreneurship

 ・成長政策分析庁 (成長政策 を担当)
→ 起業家精神の育みとスタートアップの支援(
アイデアを提出し、それが現実的に可能なサービスだと公共職業安定所が委託した経営コンサルタントが判断すれば、起業の為の各種講座・アドバイスをうけられる)
→ リスク・キャピタルの供給
→ アクセシビリティの向上等地域活性化
→ 環境面で持続可能な成長(ecologically sustainable growth)を策定
→ 分析はマクロ経済のみならず、個別企業や製品等ミクロレベルにも及ぶ(=企業の開業・廃業率等の統計整備なども行う) ︎

 ・イノベーション・システム庁(VINNOVA: イノベーション促進政策を担当)
→ 政府研究開発資金の配分
→ 企業を支援するインキュベーターの創設を後押し ︎

国はベンチャー・キャピタルや官民の基金からも資金を集め、戦略分野に効率的な資金配分を行う。
→  43%大学、24%企業(うち65%が中小企業)、22%研究開発 

ベンチャーキャピタルの対GDP比投資額 (2000 ~ 2003年の4年間平均) は世界第6位で先端製造・材料、自動車等輸送、ICT、バイオ等の、環境 ︎ 経済・社会・生態学的に重要な分野にインパクトの大きい研究開発を行っている

✔ 産業や社会のニーズを基点とした研究開発を促すため、産業界、大学・研究機関、自治体などとのコラボレーションを積極的に組成

✔ 結果事業化に向けて産官学が協力するスウェーデン型イノベーション・システムにより国際的なコラボを展開 (インド、アメリカ、日本などと)

 

企業が負担する社会保険料負担は極めて高い ︎

 ・社会保険料負担率: 31.42%
→ 年金、疾病保険、失業保険、育児休業保険など ︎

 ・雇用形態にかかわらず非正規社員にも支払う給与に応じて社会保険料を国に納めなければならない
→ 同じく給与の額の31.42%
→ 勤務時間当たりの人件費は雇用形態にかかわらず無期・フルタイムの社員と基本的に変わらない
→ 有期やパートを活用することのメリットは人件費といった金銭的なものではなく、解雇や労働時間の伸縮が容易であり、企業活動に柔軟に対応できるといった非金銭的なもの
→ 日本では社会保険料の支払いや厚生年金加入の必要がないため(パートや契約社員の場合)、非正規従業員の雇用=人件費カットにつながり、広まってしまっている状況

資本主義経済の原理の徹底 ︎

基本理念「人間を守る」のために、 欧州大陸型「雇用や仕事を守る」を否定
→ 失業や企業倒産が当たり前に生じる厳しい競争社会の顔を併せもつ(↔︎高福祉、高負担国家) ︎

 ・1人あたりGDP: $50,272 (2015)

 ・GDP 成長率: 4.1% (2015) ︎

 ・失業率1.7% (1990) / 9.4% (1994) / 6%前後 (2000) / 6.9% (2016)
(ノルウェー: 4.7%/ デンマーク: 6.2%/ フィンランド: 8.7%/ ドイツ: 3.9%) ︎

 ・労働力人口に占める就業者率は81.5% (1990)
→ 不況に伴い早期退職、仕事探しを諦めて非労働力化する者が増え70%まで下落し、75% (2007)まで回復 ︎

斜陽産業であっても倒産を防ぐことに金を費やさず、倒産を通じて構造転換を促進させることに金をかけるべきという哲学が基本的にはある。その代わり、労働者に教育・訓練によって新しい仕事に就ける能力を身につけさせることで個の能力アップを図っている。

 ・積極的労働市場政策に対する支出の対GDP比率 1.0%(日本0.3%)

さらに、生涯学習の保障を国が行っているため、 ︎

 ・何度でもやり直しが利く(失業しても生涯学習の機会が保障) ︎

 ・個人の再チャレンジをサポートする仕組みが常にある
→ 失業保険の給付で失業者を一定期間保護し、経済の構造転換に対する抵抗を緩和することで、構造転換をスムーズにする
→ 結果的に、企業にとってみれば、景気後退の早い段階で解雇を行い人件費を削減できるため、業績の回復が早くなる
→ 日本では公共事業が事実上の失業対策として機能していたが、これが逆に産業構造の転換を遅らせた

 ・連帯賃金制度
→「同一労働・同一賃金」を実現する仕組み ︎ 企業の生産正確さにかかわらず、同じ職種なら同じ賃金が支払われる
→ 労働組合と経営者連盟の中央交渉により、賃金、労働条件を協議・決定する ︎

 ・組合組織率 77% (2006)
→ 年齢、性別、正規・非正規間の賃金格差は小さい
反面、平均賃金を支払えない生産性の低い企業は、淘汰される運命にある

日本は組合組織率が18%と低く、ゆえに劣悪な労働環境が発生しやすい状況になっているようです。近年日本で取りざたされている非正規雇用と正規雇用の賃金格差の是正には「同一労働・同一賃金」を実現する職能評価制度の導入や労働市場の流動性を高める規制改革が必要だとスウェーデンパラドックスは指摘しています。

補足情報としまして、個人事業主系のビジネス(レストラン・美容室)では暗黙の了解で最低料金が決められていると、地元のビジネスオーナーが言っていました。

僕「もしめちゃくちゃ安値でお客さんを引っ張ろうとしたらどうなるんですか?」

オーナー「無茶をすれば地方の組合がやめろ・改善しろと警告をしてくるねぇ。過度な価格競争を防ぐためだけど、良い面と悪い面が実際にはあるよね、俺的には」

日本では企業が自由に価格設定・価格競争でき、結果それが消費者利益に繋がるという認識があります。ただ現実は他社もそれを真似して消耗戦(値下げ合戦)に陥るのがおおむねで、利幅が少なくなった分の負担は最終的に企業でなく労働者にしわ寄せとしてくるのが常です。例えば、数年前の牛丼チェーンのように利幅減でこれまで数人で回していた業務をワンオペ(一人でオペレーションをこなす)にし、結果給料は上がらず仕事の負担だけ激増という負のスパイラルに陥ることがよくあります。

自由競争をうたいながらも、ある一定の利益が確保出来るよう臨機応変に対応するスウェーデンの姿勢は結果個の生活を守ることになるのだなと、先ほどのオーナーとの会話は感慨深いものになりました。もちろん、競争して勝ち上がることに情熱を感じる方々からすればおもしろくはない世界かもしれません。

まとめ

✔︎ 「スウェーデン人は、なぜ高負担を受け入れるのか?」との問いよりもむしろ、国民の一人ひとりに機会の平等を保障し、さらに人生のやり直しを可能にするセーフティネットを充実させた結果、高負担にならざるを得なかった。競争した結果の平等ではなく、競争の土俵となる機会の平等を保障するのがスウェーデンの社会保障である。

✔︎ そして強い社会保障を作った元々の理由は「強い経済をつくるため」というのが基本としてある。

→マクロ経済成長率や労働生産性がOECD諸国の平均を大きく上回っている。

 ・2010 IMD 世界競争ランキング6位(日本27位)

 ・2010 世界経済フォーラム 国際競争力ランキング 2位

 

一方、近年「Last-in First-out」(勤続年数の短いものから順に解雇)による若年層の高失業率が問題視されており、この点は他の欧米諸国と同じ状況のようです(日本では高所得者をカットする意味で勤続年数の長いものから解雇される傾向にある点が逆ですね)。

ここまでまとめた段階で、スウェーデンが取ってきた多くの政策や日本との違いに驚きながら、「なぜもっと早くこの国を知ろうとしなかったのだろう、時間があり余っていた学生時代に訪れなかったのだろう」と自責の念にかられていました。

当時(2010 〜 2011) 東日本大震災直後から始まった超円高等で、ビジネス環境がめまぐるしく変化し、自分自身悶々とした日々を送っていたことも関係していたんだと思います。スウェーデン留学を決断したのはまだまだ先のことですが、この頃からスウェーデンというワードを聞くだけで敏感に反応するようになっていきました(新聞、テレビ、エドワード・スノーデン、etc)。