これまでご紹介したストックホルムのコワーキングスペース、インキュベータ、アクセラレータの多くはテック分野に特化したスタートアップサポーターでした。

あれ? じゃあストックホルム(スウェーデン)のスタートアップってほぼみんな IT 系なの?

全くそんなことはないです!スウェーデンが得意とする産業分野は日本とかなり似た部分があり、なかでもエンジニアリングに関してはヨーロッパでも群を抜いて発展しています。

実際に KTH(王立工科大学)やチャルマース工科大など、その分野での名門校と企業がコラボしてプロジェクトを推進したりもしています。このあたりは前回少し触れましたよね!

そして、もちろんこれらの大学内では多くの学生や研究者がハードウェアプロダクトの開発に精を出して取り組んでいます。

結果、KTH はハードウェア開発に特化する起業家向けのコワーキングスペースを持つこととなりました。


THINGS

THINGS は KTH をベースとした (KTH のキャンパス内にあります) スタートアップコワーキングスペースで、ハードウェアプロダクトの開発を行なっている起業家やベンチャー企業のみが入居を許されています。

また THINGS が支援するスタートアップ企業は成長産業で活動していることが条件とされ、IoT、ウェアラブル端末、3D スキャニング&プリンティング、メドテック(MedTech =「医療×IT」= 医療分野でのIT活用)、スマートグリッドなどが例として挙げられています。

THINGS の特筆すべき点はなんと言ってもその巨大なネットワークにあります。

Stockholm Makerspace(スウェーデンの最も歴史がありかつ最大のものづくり機関)

The Stockholm IoT meet-up group (1,400人以上をネットワークパートナーに持つストックホルム最大の IoT 関連ミートアップグループ)

SMSE(スウェーデン IoT スタートアップ連合で38名のメンバーと13のパートナーを要する)

THINGS に所属することで、この巨大ネットワークとコネクションを持つことができ、彼らからアドバイスを受けたり共同でプロジェクトに携われることが期待出来るそうです。

By STINGってどういうこと!?

THINGS の正式名称は「THINGS BY STING」なんですよね。みなさん、以前こちらでご紹介した STING というストックホルム最大のスタートアップアクセラレータを覚えてらっしゃいますか?

LINKSTING -スウェーデン最大のスタートアップインキュベーター-

実は THINGS は STING の支店として KTH 校内に設立されました。なぜ KTH か?

STING 自体は支援スタートアップ企業先を ICT、IT、メディア、スマートエナジー、生命科学などのセクターに絞っており、スウェーデンの得意分野であるエンジニアリングをカバー出来ておりません。

ですのでこちらに注力する目的で、あえて名前を変えてブランチアウトし、かつロケーションをストックホルム(スウェーデン)が誇る王立工科大 KTH 内にしたのです。

さらに THINGS がハードウェアグッズの開発に専念しているのに対し、STING プログラム(STING Incubate and STING Accelerate)では開発がソフトウェアな場合が多いこともあり、同じ系列であれ特色は違っています。

STING のスタッフ曰く、この意味合いでも STING スタッフや所属スタートアップのメンバーはいい刺激を受けているんだとか。

まさに相乗効果ですね!



メンバーシップ

THINGS も他のコワーキングスペース同様、フリーシート、固定デスク、プライベートオフィス、会議室など活動するのに必要なスペースを完備しております。

しかし、エンジニアリングプロジェクトとなれば他と同じでは困ります。ハードウェアを作るのに高価なデバイスや、それを可能とする施設などが必要なのです。

ここで、なぜ彼らが KTH とコラボしたかが分かります。

試作品の製作に必要な3D プリンターや研磨機、レーザー加工機など多くの製造装置を所有する KTH のリソースをメンバーシップを持つことで利用可能になるのです(使用可能な装置は要相談とのこと)。
さらにその道で経験豊富な教授や研究者、もちろんそこで学んでいる学生から意見やアドバイス、専門知識を得ることもでき多くの利点があるわけなのです。

THINGS のスタッフの方曰く、

「エンジニアリングを学ぶ KTH の学生はみな好奇心旺盛で新たな学ぶ機会には積極的に参加する傾向にあるんだよ。あなたが THINGS の一員としてプロジェクトに励んでいたら、彼らが興味を持たないわけないよね。」

とのこと。僕も自分の KTH の友人を見た時これには賛同しました。みんな本当に親切で向上心が高いので積極的に相手を思い、意見をぶつけていたのを思い出します。

完全サポート、ゆえに選びます

CEO Linda Krondahl (右)/ Photo: THINGS

THINGS はコストのかかるハードウェアスタートアッププロジェクトを完全サポートするがゆえに、所属メンバーの選定には相当な注意を払っているそうです。

これは言い換えればエンジニアリングベンチャーの成功するハードルが非常に高いため、最低でもメンバー間で専門知識や、スキル、アイディアを共有し互いに刺激し合う相乗効果を生み出したいがためです。

失敗してもただでは終わらないという決意ですね。現在彼らがサポートしてきた企業は地道な努力の末、メディアに取り上げられたりプロジェクトが着実に前に進み実をあげているようです。

結果、THINGS 自身も評判が高まりオフィスへの新たな入居希望が年々増えているんだそうです。

THINGS の評判が高まっているもう1つの理由が、彼らがスタートアップ企業が成功した際(新たなファンディングを得たり事業が大幅に伸びた時など)、オフィス利用費用以外にマージンやエクイティを持っていかないことがあるようです。

他の IT スタートアップ向けシェアオフィスとは異なり、KTH が貸し出す設備の費用負担などコストが大きければ何らかの見返りを求めそうなものですがそれをしていません。

スタートアップ企業にとってはプロジェクトに専念出来る素晴らしい環境ですよね。

スウェーデンでエンジニアリング関連のベンチャーに興味をお持ちであれば、是非 THINGS に立ち寄ってみて下さい。