新型コロナウイルスの問題で、2011年以来の国内景気減速が叫ばれるなか、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事が、
「金融政策の余地は限られているが、ゼロではない」
と、金融緩和や財政出動で景気を下支えるよう各国に呼びかけました。世界的に金利が下がりきり、経済への副作用が議論されるなか、また緩和への流れが始まってしまいました。
先日、「スウェーデンのマイナス金利政策の終了」に関して、こちらのサイトでも取り上げました。
LINK【マイナス金利問題】脱却するスウェーデンと副作用まみれの日本を見る
最もマイナス金利の(悪)影響 を受けている地方銀行の過剰融資や、投資信託との抱き合わせ商法(住宅ローン申し込み)など、モラルを欠いた営業の実態が明るみになってきました。
前回の記事では主に日本における副作用問題に焦点を当てましたが、今回は脱却を決定したスウェーデンで発生している副作用について見ていきたいと思います。
1つの実験的経済政策の終了に過ぎないのか? はたまたもっと深い意味があるのか?
トップの反省論から始まった終了決定
2019年12月19日、スウェーデンの中央銀行にあたる Sveriges Riksbank(スウェーデン国立銀行)が、政策金利を現在のマイナス0.25%から0%に引き上げると発表しました。
家計の債務膨張に歯止めがかからず、景気と物価は勢いを欠くなか、マイナス金利政策が想定以上に長期化し、そこから抜け出せなくなることへの危機感によるものでした。
「まさかゼロに戻すのに5年もかかってしまうとは、誰も予想していなかった」
と、国立銀行イングベス総裁は発言しています。元々は短期での景気と物価押し上げを狙った実験的政策だったようですが、出口戦略を描けずにいたという自らの “反省論” と受け取れます。
そして、最も懸念していたのが、民間銀行による預金口座金利のマイナス化という事態でした。預金の取り付け騒ぎや無謀なリスク投資など、社会的混乱が起こりかねないと警戒を強めていたようです。
家計向け融資の激増
前回の記事でも触れましたが、明るみになった衝撃的事実は、スウェーデンでの家計の債務が、金融危機前の米国の水準をはるかに上回っているということでした。
可処分所得(給与やボーナスなどの個人所得から、税金や社会保険料などを差し引いた残りの手取り収入のこと)比で180%を超え、米国が金融危機前の140%から110%へ数値を下げるなか、全く逆の動きがスウェーデンで発生していたのです。
少しでもアメリカ含む北米での居住経験がある方には容易に想像がつきますが、アメリカ人の借金に対する感度や意識は一般的に低いです。
特に借金を良しとしない傾向の強かった我々日本人から見れば、少々厳しい言い方ですがお金に関してはかなりズボラな印象があります(これは僕自身の個人的印象ですが)。
これは学生ローンなどの必要な借金だけでなく、住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードデット(借金)など総合的に見て感じた印象です。
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その米国の数値をはるかに超えているということは、いかにスウェーデンで異常な事態が起こっているのかを物語っているのです。
そして、多くのマネーが住宅市場へ向かってしまったなか、住宅バブルの崩壊(価格の急落)をいかに起こさないよう着地するかが、今後の焦点であるようです。
輸出大国の通貨安神話の崩壊
そして、マイナス金利政策が証明してしまった「今までと全く異なる産業構造の変化」が、通貨安になっても輸出大国は以前ほど恩恵を授かれなくなったという事実です。
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マイナス金利導入の背中を押したのが、通貨安による
- 輸出競争力 ↗︎
- 輸入物価 ↗︎ → 低インフレからの脱却
という経済好転のシナリオでした。しかし、Sveriges Riksbank の最新の調査では、これまで見られなかったデジタル化による経済問題などが取り上げられました。
実店舗型経済からオンラインセールスが主体になっていく昨今、販売競争が激化で仕入値の上昇を売値に価格転嫁出来ない事業者が増加。
結果として、コストが上がっただけで業績の悪化を訴える企業の増加が目立ったようです。
当然ながら、各国が目標としているインフレ率2%達成は、スウェーデンでも達成することが出来ていない状況です。
失敗を認める姿勢
皆さん、冒頭にご紹介した Sveriges Riksbank 総裁の反省とも取れる文言、
「まさかゼロに戻すのに5年もかかってしまうとは、誰も予想していなかった」
を聞いて何を感じますか?
もっと言うと、日本においても前回お話したように、同様の事態が起こっているにもかかわらず、今現在に至って政府や日銀がそうした副作用に触れることなく、2%達成目標に固執する姿を見て何を感じますか?
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僕はここに今日の日本の政治家や官僚に蔓延する、”道徳心の欠如” を感じずにはいられません。
自らの非を認め、修正しようとする努力に対して、非を認めず、いつまでたっても言い訳を上塗りするという、人間としての末期症状が彼らには見られるからです。
僕はスウェーデン信者ですが、これはスウェーデンを上げるための意見でもなければ、海外居住経験者症候群(日本がダメなのは〜)からくる不満でもありません。
そもそもマイナス金利という政策は、「預金に対して金利が付かない」というハンディキャップを、国民が背負わされています(昔と比べ)。
「本当に国民の幸せを考えている」というのであれば、借金を促して自らの数値目標達成のために金回りばかりを気にするのではなく、いかに借金をせずに暮らしていけるかを考えるのが、道徳心からくる本来の流れではないでしょうか?
では、道徳よりもお金(経済)がこの国では優先されてしまっているのか? 答えは火を見るよりも明らかでしょう。
*スウェーデンに留学・ワーホリ・移住予定の方向けの、スウェーデンの生活にまつわるページを設けました。子育て、教育費、給料、税金、不動産売買、などなど包み隠さずお話しています。見て損はさせません。