ウプサラ滞在中よく通っていた美容院がありました。「あれっ?また来たの?」と言われるくらい髪の毛の伸びるスピードが早い僕ですが、その頻度の甲斐あって美容師さんから色んな話を聞くことが出来ました。

そのうちの面白かった話の1つに、

実はスウェーデンのサービス業は自由競争ではない

という自分にとっては目から鱗の事実がありました。

この数年前に聞いた話が、実は最近相談を受けたサービス業従事者の方の話とリンクし、かつ今話題の改正入管法にも関係してくると自分の中で感じているためここでお話することにしました。

あくまで自分自身の経験と感覚から語る内容ですが、そのサービスに従事する方々には不快な内容になるかもしれません。この点あらかじめご容赦いただければと思います。

美容院業界に見る日本とスウェーデンの違い

会話の始まりは本当にふとした世間話からでした。

「日本にも美容院てたくさんあるの?」

僕は自分の友人が美容院グループを経営する家業で働いているため、よく業界の厳しい状況を聞いていました。

美容院の店舗数は2008年から2017年までの10年間で、2万6184件増の24万7578店となり、これは全国のコンビニ大手7社の店舗数(2018年10月時点)5万5564店の約4.5倍に相当します(日本フランチャイズチェーン協会調べ)。

それにともない廃業数も大幅に増加しています。東京商工リサーチの調べでは、2015年に減少に転じた美容院の倒産件数が再び増加傾向になり、今年2018年の件数は過去10年で最大になる見通しです。

倒産原因の9割を占めるのが「販売不振(業績不振)」 によるもので、これは飽和する業界で生き残るため、各店が打ち出すクーポン割引・ポイントカード乱用などの過当競争が主な要因のようです。

僕の友人もこの点は本当に危惧していて、「(店舗の)オープンゴールが若い子の間で当たり前になっている」と語っていました。これは事業存続のことまでは考えず、店舗の内装やインテリアにこだわるばかりで、‘店舗をオープンすること自体がゴール’ になってしまっているという意味だそうです。

当然そこに至る経緯には、

・他の業界と比べて賃金が低いこと
・下積み時代が長いこと
・各市が新規店舗事業者に補助金を出していること

などなど様々な事情がありますが、この状況は今後も加速することが予測出来ます。

業界が飽和状態にあり、競争で年々値段も下落傾向にあることをさきほどのウプサラの美容師さんに伝えると、

ここじゃあそれはあり得ないわ。そんなことしたら誰も得しないじゃない?スウェーデンでは競争のバランスを著しく崩すサービス業者に対して、自治体が文句を言って値下げを許さないの。

「!?」

あまりにも悪質な場合はお店を開けさせてもらえないのよ!

価格競争の消耗戦を避ける取り組み

これは「スウェーデンは自由競争をモットーとしている」と信じていた僕にはビックリの内容でした。補足すると、大企業間の競争に関して言えば公正な競争を促す一方、人々の生活にダイレクトに影響するサービス業(美容院、スーパー、外食、etc)に関しては、過度な競争で消耗戦になることをを防ぐため、行政がきちんと目を見張らせているのだそうです。

業界や地域内である程度「この商品、このサービスはこれぐらいの値段」というのが暗黙の了解で決められており、それを下回るような価格設定をすると行政指導が入るのだそうです。

「ん〜、色々思うところはあるけど、なるほど!」と合点がいきましたが、よくよく考えるとそういう風に地域社会をコントロールするのが行政の仕事ですよね?

「誰でもどんどん店舗立ち上げて下さいよ〜」と野放しで競争させる状況は、一見自由競争が働いてウエルカムな環境見えるかもしれませんが、単に行政が職務を果たしていない、もしくは競争による撤退と新規参入の循環を加速させ、”カネが動く‘ 状況を意図的に作り出そうとしているかのどちらかと言えると思います。

おそらく後者が日本の政治家・官僚の意図するところだと考えられますが、美容院業界と同じくらい近年その熾烈な競争を見てとれるのが外食産業でしょう。

飲食店地獄

「やらんかったらよかったわ …。」

そう語る男性の声は悔しさと後悔が混ざったような痛々しいものでした。先日兵庫県内で居酒屋を営む経営者の方とお話する機会があったのですが、自身が直面する八方塞がり状態について嘆いておられました。

近年、僕が住む兵庫県内では飲食店の数が目で見てすぐに分かるほど爆増しています。海外からのインバウンドが増えるのに相まってこの状況は加速したように感じますが、もう1つ特徴的なのが活気を失っていた商店街が飲食街化しているという事実です。

これにはいくつかの要因が複合的に関係しています。

1. 空き店舗が増えている
→ 昔からその土地・店舗の権利を持つ高齢にさしかかった経営者が、店仕舞いをし権利を手放すか貸し出すことで空き店舗が急激に増えた。典型的な例は、おそらく趣味感覚で営まれていた紳士服・婦人服などのブティック店。

2. 行政からの補助金と融資
→ 例えば県内のある都市では、新規オープンするサービス業者(飲食店含む)にリフォーム代50万円程度を支給。さらに1000万円まで融資する政策を打ち出している。

3. 規制緩和
→ 以前は行政に提出する資料(例えば消防法に関するものなど)や検査など、飲食店オープンには様々な事前作業が必要だったが、あらゆることが簡素化されし易くなった。あるオーナー曰く「今日の明日で店出せる」だそうだ。

4. 飲食コンサルタントの存在
→ 長年の修行を踏まずにオープンする飲食店経営者は、店舗のレイアウト、材料の調達、従業員確保、プロモーションなどに不慣れだ。そういった方々向けにサポート業務を引き受ける業者や個人コンサルタントが活躍する(僕もなぜか立ち飲み屋で名刺を渡された経験あり)。

5. フランチャイズ型飲食サービスの増加
→ 
あらゆる都市で飲食の先駆者がおり、彼らは途中から直営展開をやめ、フランチャイズオーナーを募るプロデュース業に専念している。加入する側のメリットは、店のコンセプトやメニューなどがあらかじめ決められているので、すぐに飲食業が始められる。

これら以外にもインバウンド増加へのさらなる期待など、様々なものがありますが全国的に飲食店は増加傾向にあります。美容院の状況と同じく、帝国データバンクの調べでは2017年の飲食店倒産件数は過去最多の707件となり、2000年の147件から4.8倍という爆増傾向が見て取れます。

問題は需給ギャップが甚だしく、固定客がつかない状況にあるのだと冒頭の居酒屋経営者は話しました。というのも、これだけ消費者側で選択肢(行く店)が増えれば、誰もが1度は新しい店を試す傾向にあり、以前は週に2回来ていた常連客が、週に1回の来店になり、その後は2週に1回、月1、最終的には2度と顔を見ることがなくなるケースが増えたんだそうです。

確かに僕自身もまさしくそれで、以前久しく通っていた居酒屋には数ヶ月以上顔を出しておりません。

さらに彼らにとって厄介なのが、不動産契約の縛りです。これはお店を始める時に「最低契約年数」というものが設定され、そこにいようがいまいが家賃を払わなければならないのです。

例えば店舗出店の加速で駅前に競合が増え、駅から少し離れた自分の店が商圏的に不利な土地に変わります。この時、その場所を撤退し駅近へと店舗の移動をしたくとも、先ほどの不動産契約の縛りで家賃が発生し、身動きがとれない状況になるケースが多々あるのです。結果として販売不振の状況が続き、廃業に追い込まれるケースが大半のようです。

僕がお話をした居酒屋経営者の方も、「5〜6年前では考えられないくらい飲食店が増えた。自分ももう店をたたむつもりだが、こんなものはどの飲食店も得をしない」と状況を放置する行政のあり方を批判していました。 

これは実は僕たち消費者にとってもマイナスであることを肌身で感じています。というのも、ある一定の競争が働けば値下げや質の向上をはじめとする企業努力が見込めます。しかし過当競争に陥った店が出来ることは、’質を落としてコストを下げる‘ ことが大半で、結果的に消費者が満足出来ないサービスの提供に繋がります。

僕が以前頻繁に通った居酒屋にもう行かなくなったのはこの点が大きく、例えばお刺身などは値段は高くなり鮮度はガタ落ちと、残念ながら通う意味を感じなくなりました。

これらの点より僕個人的にはそろそろ ‘飲食店の出店規制’ が必要ではないか?と考えています。それゆえに、外食産業人手不足という発表に違和感を感じるのです。

外食産業人材不足?

こちらの資料は日本経済新聞掲載の改正入管法にまつわる、外国人労働者受け入れ見込み数に関するものです。今年に入り政府(官僚)がこれらの数字をもとに人手不足が深刻であることを主張しておりますが、1つ僕がどうしてもしっくりこないのが外食の人材不足に関してです。

現時点の人材不足数では他業種と比べて著しく突出しており、5年後も介護分野と伍する数値が示されています。これまで色んな観点で外食産業の人手不足の正当性を主張する方々の意見を聞いてきましたが、それでも合点がいきません。

それはさきほど述べたように、まぎれもなく国・行政が自ら飲食店の数を増やす政策を取り、外食産業界における人手不足感を演出し、それがいかにも国の経済を揺るがす深刻な自体だと自作自演しているように感じるからです。

より細かく自分の考えを言えば、介護・建設・農業・医療・その他ものづくり産業などにおいての人手不足は、今後深刻な問題になると僕も考えています。それら本当に深刻になる分野のかたまりの中に、「ぽいっ」と外食の人手不足を紛れ込ませているように感じてしまうからです。

こう僕が考える理由は、多数の飲食店関係者との会話で「もう飲食店を作らないで欲しい」と彼らが主張していることと、我々消費者ももうそれほど飲食店の増加を望んでいないことを挙げます。

外食産業が人手不足になることでアルバイトを探す側は選択肢が増えることは事実です。しかし、そういった形で労働力が分散され、これから生活に必要不可欠になってくる産業の人手不足が深刻になり、国として自分の首を自分で絞めているように見えてしまいます。

そしてこれらの人手不足感から、最終的にはやはり外部から人手確保(外国人労働者の受け入れ)する必要があるという主張が発生し、そこまでして外国人労働者を受け入れたい政府の思惑は人手不足解消以外にあるのでは?と勘ぐってしまわずにはいられません(税金を吸い上げるため?日本で消費させるため?)。

逆に言えば、外食分野で人手不足の状態を作っておかなければ、全産業人手不足という状況が作り出せないのでは?という主張はあまりにも批判的でしょうか?

非常に疑問の残る政策です。