こんにちは、今回はスウェーデンとは少し離れて、世界のスタートアップブームに関する内容です。

これまでスウェーデンのスタートアップに関する話題に触れてきましたが、同様またはそれ以上に活発的な動きが、アメリカ・中国の世界2大経済圏を中心に拡大し続けています。

その他にも有名どころで言えば、ロンドン(イギリス)、テルアビブ(イスラエル)、ヘルシンキ(フィンランド)などなど、世界中でスタートアップブーム、とりわけテック系の起業が爆増している状況です。

日本においても、これまで遅れているとされてきた起業環境が、東京を中心に改善されてきています。

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1つの要因として挙げられるのは、日本の大企業が CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)や VC(ベンチャーキャピタル)を創設する動きが活発化し、スタートアップ企業への投資が活発になってきたことと考えられます。

とりわけ、ソフトバンクがアリババ、スーパーセルなどの株式売却で、非継続事業からの純利益を激増させた事による ‘投資事業 の成功’ が、多くの企業に影響を与えてきたように見えます。

しかし、このベンチャー投資の流れに関して言えば、多くが海外企業へと資金が向かっているのも現実のようです。



それでも主要マーケットはアメリカ?

Venture Enterprise Center (VEC) によれば、日系ベンチャーキャピタルが2016年に海外のスタートアップ企業に投資した金額は429億円。その内訳は

 ・🇺🇸🇨🇦 北米 ¥187億 (44%)
 ・🇪🇺     欧州  ¥ 35億 (   8%)
 ・🇨🇳  中国  ¥ 10億  (  2%)
 ・その他

となったようです。

日本人投資家達が北米を最重要スタートアップ市場と考えるように、今でもマネーの多くがアメリカ・カナダへ流れています。

アメリカにおいては西側のベイエリアが今でも起業のメッカとして認識されており、(少し古いですが)Venture funding by region 2014 のレポートからも分かるように他とは一線を画しています。

カリフォルニアの人口は380万人とアメリカ全体の10%に過ぎませんが、55%のファンディングがベイエリアに向かっているのも象徴的です。

起業家の大移動

このサンフランシスコのベイエリアとシリコンバレーは、地価の急激な高騰などにより、居住区域ではなくなったことは有名です。

そして、その主要因となっているのが、ハイテクスタートアップ企業の集中です。

近年、世界的にハイテク市場での人材不足が問題となっており、シリコンバレーなどの地域において、能力のある IT 開発者の初年給は、日本円でなんと “2,000万円” 近いとも言われています。

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その結果、起業家がそれまでスタートアップの聖地と呼ばれていたこれらの地域を選ばず、809マイル程北にあるシアトルを選び、スタートアップ(起業)を興すようになりました。

この流れの発生が今からもう何年も前のことです。



シアトル

シアトルの住環境は、アメリカでもトップクラスに良いことで有名です。

街は太平洋の海と山々に囲まれ、安定した気候と海産物が特色で、アメリカ人のみならず隣国カナダからも旅行者が絶えません。

またスターバックス、コストコ、ボーイング、マイクロソフトなどの伝統的大企業だけでなく、アマゾン、エクスペディアなど、新興テック企業がシアトルに本社を置いております。

その結果、人口は70万人程度ですが経済が強く、アメリカ人の移住先としても人気な都市のようです。

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このような安定した住環境と強い経済が両立しているにもかかわらず、生活費は先ほどのベイエリアやシリコンバレーよりもはるかに低い。

ゆえに、 IT 人材雇用にかかるコストも低いことから、起業家達がこの街にシフトしていったのでした。

僕自身も北米滞在中は度々シアトルを訪問しましたが、自然と近代化した街の雰囲気が本当に居心地が良く、海鮮類を使ったジャンクフードに激はまりしていました。

実際、ニューヨークなどと比べても、”費用面でリーズナブルな街” という印象を持っていました。

しかし、多くのテックスタートアップに選ばれる街となり、その状況は一変しました。

物価の高騰

Photo: https://underfifty.blogspot.jp

シアトルでもテックスタートアップのブームにより、不動産バブル、オフィスの賃料高騰、IT 開発者の雇用コスト高止まりなど、全てのコストが跳ね上がるという状況が起こりました。

かつてサンフランシスコのベイエリアが経験したように … 。

先ほど触れた大企業群も、この状況に拍車をかけていると言っても過言ではありません。

そもそも彼ら自身、スタートアップ企業への投資や買収を通して、スタートアップエコシステム形成の一役を担っているからです。

さらに、これらシアトルベースの大企業が地元スタートアップ企業をサポートする流れを見て、他の都市からも資金が流入するようになりました。

豊富な資金提供を受けた IT スタートアップの特徴の1つに、洗練されたオフィスへの入居が挙げられます。

月に数百万円もするダウンタウンのビルに入居し、従業員のために高価なオフィス家具・アメニティを揃え、それらをアピールポイントに、また新たな人材確保にのぞみます。

そして、このトレンドを不動産デベロッパーが見逃しません。

周辺ビルの賃料の上昇のみならず、新たなビルの建設など都市開発がさらに進みます。

その結果、アパート賃料の値上げなど住居費含めたコストが急騰し、一般人が住めなくなる現象が起こりました。

これらも先ほどから繰り返し触れる、サンフランシスコのベイエリアなどが経験した現象です。

ゆえに、テック系スタートアップが栄えた街の共通現象と言えると思います。

では、テックスタートアップブームが起きた街では、どんな社会現象(これも共通のようです)が起きるのか?

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テントシティ

シアトルを訪れた際、何度かお世話になった友人のお父さんは、ボーイング社で数十年働くシアトル市民です。

その彼が数年前にはっきりと「これからこの街はどうなっていくんだろう?」と僕に語ったのを今でもよく覚えています。

数十年間その街に住んできた人にとって、都市の中心部・周辺地区のコストの上がり方は、”常軌を逸している” と感じずにはいられなかったんだそうです。

正直、彼の年収は僕から見ても相当に高いですが、そんな人でも生活を維持するのがだんだんと難しくなってきているということでした。

これを示すより象徴的な現象が、シアトル中心部にある ‘テントシティ’ と呼ばれる一画です。

テントシティはもともと住まいを失った人々に、一時的に一定地域内でテント生活を許可するという行政の政策だったのです。

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しかし近年、このシアトルのテントシティが、テクノロジースタートアップブームがもたらした “負の遺産” として、世界中で認知されるようになりました。

僕が最後にシアトルを訪れた2014年には、既にテントシティは存在していました。

今ネット上で確認出来る規模よりは、もう少し小さかった印象でしたが、当時と比べると確実にテントシティに移り住む人々が増え、規模が急拡大しているのが分かります。

このテントシティが認知されるようになったのが、実は近年そこに移り住んだ人の多くが、 ‘仕事をしていたのに住居を失った‘ 人達で、我々がイメージするホームレスの人々とは、かなり事情が異なるからです。



超インフレ現象

彼らは長年、シアトルに暮らし、仕事をして、生計を立てることが出来ていました。

しかし、先ほど触れたテックブームで不動産価格の急騰が起こり、それにつられアパート賃料の値上げ、強制退去を迫られるという事例が、後を絶たなくなりました。

この他にもシアトルでは様々な変化がここ数年ありました。

例えば最低賃金が法令によって上げられ、それに伴い多くのレストランオーナーがチップ制を廃止し、その分価格に転嫁をしました。

結果として、それまでそれらの飲食店を利用していた顧客に金銭的負担が強いられ、物価上昇に拍車がかかることとなったのです。

このような超インフレ現象をシアトル市も懸念し、結果的にシアトルの一部ダウンタウンエリアで、テント生活を公式に認める事態となりました。



これらの話は僕が北米滞在中に、シェアメイトだったシアトル出身のティファニーから直接聞いたのですが、その後実際に自分の目で見たときは何とも言えない感情になったのをよく覚えています。

また、現地(シアトル)のスタートアップイベントに参加した時に、若いテックスター達が大盛り上がりしていた様子を見て、その(テントシティの人達との)ライフスタイルのギャップに、正直違和感しか覚えませんでした。

「ブームなんだろうけど … 、道徳的に考えて … これって … 」

そう心の中でつぶやきました。

ちなみにそのティファニーも、シアトルの物価急騰から逃れるために、活動拠点をカナダ・バンクーバーに移した1人でした。

そして先ほど触れた、僕がお世話になったボーイング社で働く方は、彼女のお父さんでもあります。

現在シアトルには8つのテントシティが存在していますが、「さらなるテントエリアの必要性」を唱える人々と、街の景観などの問題から「これ以上増やすべきでない」と反対する人々の間で対立が起こっているようです。

そして、今このテックスタートアップの負の現象が、国境を越えシアトルのすぐ北にあるカナダ・バンクーバーで起こっているのです。

LINK【世界で最も住みやすい街バンクーバーも終わる?】テックブームが壊す社会の実像2