スウェーデンのスタートアップに関するお問い合わせをよく外国の方からいただきます(このサイトを通してからもいただくのですが、特殊な翻訳機能でもあるのでしょうか?)。

スタートアップビザの有無や起業登録の方法、どのコワーキングスペースがおすすめかなど内容は多岐にわたるのですが、必ずワンセットで聞かれることが「スウェーデンのスタートアップ環境って実際どうだった?」という質問です。

ストックホルムを中心にスウェーデンのスタートアップ関連情報を発信するサイトですので、もちろんポジティブにお話してきましたが、当然陽があれば陰もあります。

陰というよりもその特性(環境)が “合う合わない” と言った方が良いかもしれません。

今日は「ストックホルム(スウェーデン)スタートアップエコシステムはどのような特性があるのか?」を語る上で、1つの比較をしたいと思います。スタートアップの聖地シリコンバレーとの比較です。

アメリカ的スタートアップエコシステムとの違いとは!?



スウェーデンではスター企業が生まれない!?

SUP 活動中に起こった今でも忘れられない出来事の1つが、イベントで出会ったあるアメリカ人起業家との会話でした。結論からいうとスウェーデンのスタートアップ環境に対する強い不満だったのですが、後々他の方から聞いた話とパズルのピースのように合致したことがその会話を感慨深くしました。

彼(アメリカ人男性)は長期間ストックホルムで自分のベンチャープロジェクト取り組んでいたのですが、最終的に中止してアメリカへ帰国する運びとなりました。

こっちの人は本当に成功したいと考えてるのかちょっとよく分からなかったよ … 。

サンフランシスコ出身のこの方は現地のスタートアップ事情にも詳しいようで、本場のスタートアップ環境について色々語って下さいました。

向こうは野心的な人間が切磋琢磨してもっと良いアイディア、良いサービスをつくろうとするんだ。だけどスウェーデン人は力をセーブしちゃうと言うか、プライベートを犠牲にしてまで成功者になろうとする気概とか覚悟のある人が少なかったよ。というか、出会わなかったんだ。

この話を聞いたイベント(Happy Friday)が彼のスウェーデンで参加する最後のスタートアップイベントだったようですが、全く楽しんだ様子はなく悔しさを滲ませていたのが印象的でした。

スウェーデンから Spotify みたいなスター企業がまた現れるとは思わないよ。

捨て台詞にも聞こえたこの言葉ですが、実は彼がスウェーデンで成功しなかった理由は「初歩的な文化の違いに対する理解不足」であったことをある友人が気づかせてくれました。

その友人は以前 Fintech Hub でも登場した SUP・PR マネージャー(当時)Lana なのですが、彼女がシリコンバレーへ出張に行ったとき、「スウェーデンとアメリカの違い」をまざまざと見せつけられたのでした。

サバイバルが基本のアメリカスタートアップ

SUP のイベント主催や広報活動に従事していた Lana は、時々国外のスタートアップイベントに参加して、SUP の活動を知ってもらうだけでなく、スウェーデンが起業家にとって魅力的な場所であるという認知度向上のためのプロモーションをよく行なっていました。

そんな彼女が数週間アメリカシリコンバレーへ飛び、スウェーデン代表として普及活動をしながら現地スタートアップ関連団体とのネットワーク作りに取り組みました。

帰国後 Cafe でお茶をしながら出張の感想やシリコンバレーのスタートアップの様子を聞きました。

噂には聞いていたんだけど、現地のスタートアップインキュベーターやアクセラレーターの役割はスウェーデンとはかなり違っていたわ。どんどんどんどんスタートアップの “ケツを叩いて” 改善・向上させる感じ。スタートアップの数が比較にならないくらい多いから、追い込んで追い込んでギブアップするスタートアップがいても目もくれず、生き残った企業にだけ手厚い支援が注がれる様子だったわ。これぞ競争競争のアメリカ。効率的だけどスウェーデンではまず無理だし、私はあの環境馴染めなかった。逆にアメリカのスタートアップの人達がこっちに馴染めるかどうかも微妙だけどね。

この話を聞いた時に思い出したのが、冒頭のスウェーデンを去ったアメリカ人起業家の言葉でした。



協調至上主義?

アメリカ人起業家の方がスウェーデン、ストックホルムのスタートアップ環境が好きになれなかった1番の理由は、競争環境の違いだと思います。

Lana が言ったように、シリコンバレーのサバイバルゲームのようなスタートアップ環境は、絶対数が圧倒的に多い状況では「良いものを選別」するのに絶対不可欠で効率的な選択肢のはずです。

一方で、そこまでのサバイバルゲームをしかけられない(数が少ない)スウェーデンでは、競争よりも協調策を選んでおり必然的にインキュベーターやアクセラレーターなどの役割は “ケツ叩き”よりも、協力的なアドバイスや機会の創造という選択を取っています。

LINK【助け合いを重んじるスウェーデン人】Skype ストックホルムオフィス閉鎖時に起こった出来事

僕はシリコンバレーに行ったことがないので現地スタートアップの人々がどんな状況で働いているのかは分かりませんが、少なくともストックホルムの起業家達が「これがダメなら自分は全てを失う」、「明日路頭に迷うかもしれない」のような切迫感を持ちながら働いている風には見えなかったです。

実際、夕方6〜7時になると仕事を切り上げる人も多く、休暇も存分に取り家族との時間を大切にしている人ばかりでした。逆に、北米(シアトルとバンクーバー)のスタートアップイベントで会った人達は、寝る間も惜しんで成功を掴もうと、昔のモーレツ日本人かの如く鼻息が荒かったのをよく覚えています。

「競争競争」が肌に合わない僕はスウェーデンのこの状況をポジティブに捉えておりますが、競争社会で勝ち残れるポテンシャルとメンタルの高い起業家にとっては、退屈な環境と捉えられるかもしれません。

  • 仕事から得る成功が人生の全てを写しているのか?
  • 仕事から得る成功は人生の1部でしかないのか?

全ての方がそうではありませんが、ストックホルムのスタートアップエコシステムでは後者の意見を持った方が多かったと、活動を通して感じました。