Skype(スカイプ)の創業者の1人 Niklas Zennström 氏がスウェーデン人であることはよく知られています(ウプサラ大出身です)。ゆえに、スウェーデンのスタートアップが語られる時、必ずと言っていいほどSkypeの名前が挙げられます。
Skype はサービス開発が隣国エストニアで行なわれたり、本拠地がルクセンブルクに移るなど拠点が転々とした歴史がありますが、ヨーロッパではスウェーデン発のスタートアップとして認識されている印象でした。
そんな Skype もe-Bay に買収されるなど紆余曲折を経て2011年に Microsoft に買収されました。以後もそのサービスは Microsoft の一部門として大きな役割を果たし、とりわけ近年ではオンライン語学学校にとってはなくてはならない無料アプリとして、世界中の人々に利用されております。
それゆえに、数年前に起こった「Skype ストックホルムオフィス閉鎖」発表は地元民にとって大きな衝撃を与えました。
Skype Stockholm Office
Skype ストックホルムオフィスは閉鎖が発表された2017年時点で
- 従業員数:120名
- 売上高 :SEK 2億5千万(2016年)
- 営業利益:SEK 3千百万(2016年)
と非常に安定的に収益を生み出していることで知られていました。まさかそのオフィスを閉めることになるとは … 。2011年に完成しためちゃくちゃ “オサレ” なオフィスで有名でした。
スウェーデンメディア The Local によれば、閉鎖の裏側にあったのは世界中にオフィスを構えたことで、地理的に近いにもかかわらず機能面で重複している状況があったようです。
しかしこの1番の懸念点はやはり120名の経験豊富なスタッフが失業するということでした。ストックホルムオフィスのスタッフの方曰く、その多くが IT デベロッパーの方々だったようです。
そこで豊富な知識とスキルを持ったタレントが職を失いその知性がロスされることを防ぐため、STING と SUP46がすぐさま動きました。
スタートアップとのマッチメイキング
- Skype Stockholm の IT Developer ⇄ 人材不足に悩む Stockholm Tech Startups
をつなぐためのイベントで、ストックホルムのスタートアップエコシステム創造に力を注いできた STING と SUP46 にとっては、今回ほど力を発揮した緊急事態はなかったのではないか?と端から見ていて思いました。
このイベントが急遽決まった背景には3つの思惑が合致したことがありました。
- Skype Office が閉鎖されることで120名のスタッフが失業するというネガティブイメージの回避(Stockholm Business Region)
- スタートアップエコシステム強化取組の一環として、大企業に勤めるテック人材(Skype)のスタートアップ企業への関心を高めること(STING)
- 所属するテックスタートアップ企業の人材難の解消(SUP46)
それ故にイベントは Skype 閉鎖発表の当日に行なわれ、その日は本当に多忙でした。
ある朝学校でミーティング中の僕にインベントマネージャーから電話があり、「Tada、緊急事態よ。15時にオフィスに来れない?訳は聞かないで、とにかくダッシュよ。」
マネージャーはいつも僕を持ち上げるため「あなたしか出来ない仕事よ」とか「Tada だけが頼りなの」とか「晩御飯用意しとくわ」とか「ビール自由に飲んで良いわよ」とか言って僕を喜ばしてくる方だったのですが、この時ばかりは本当に切羽詰まった感じがしました。
なぜなら急過ぎる出来事のため担当出来るスタッフがおらず、「Tada 今日のファシリテーターはあなた1人よ!進行もスピーチも考えといてね!ヨロシク!」 と丸投げだったからです。
進行だけでなく食事や飲み物の準備、STING 側との打ち合わせ、イベントの集計データのまとめなど、1人でやることガッツリでした。しかしこのイベントは Skype スタッフや SUP 所属のスタートアップにとって非常に身のあるイベントになったようです。
Skype スタッフの反応
STING の代表者のオープニングスピーチでこの Mingle イベントが始まりました。
「今日は本当に来てくれてありがとうございます。皆さんに会えたことを喜ばしく思うと同時に、皆さんが今日 SUP に所属する素晴らしいテックスタートアップ企業に出会えることを心より願っています。」
38名の Skype スタッフがイベントに参加し、SUP に所属するスタートアップ企業が各々設けたブースで、ビジネスの内容や面談に関して説明を受けていました。
僕は当日のデータ集計もお願いされていたので Skype スタッフと話す必要があったのですが、反応は様々だったのが印象的でした。
「Skype Office 閉鎖でこんな思いやりのある動きをしてくれるのは本当にありがたいよ。」
「意外とおもしろそうなビジネスをしているスタートアップがあっていくつか面談を受けてみるつもりだよ。」
「スタートアップだけじゃなくてもう少し規模の大きめな企業とのマッチメイキングもして欲しいね。」
「色んなスタートアップ のビジネスについて今日聞いたけど、自分の能力が果たして発揮できるのかちょっとよく分からなかったね。
スウェーデンのスタートアップ界を描写している!?
当然ポジティブ・ネガティブ両方の反応を STING や Business Region の代表者に伝えると、
「それでいいと思う。皆がスタートアップで働くことが素晴らしいと思わなくて当然だし、スタートアップで働くことはそれなりの覚悟が必要だからね。だけど僕たちが大事だと考えていることは、ストックホルムのスタートアップ業界やテックフィールドで何か大きな出来事が起こった場合、僕たちサポーターが率先して動くことだと思うんだ。その時はともに協力すべきだし、それがストックホルムスタートアップエコシステムだからね。」
スウェーデンのスタートアップ関連イベントに参加すると必ず聞く言葉が「エコシステム」なんですが、そのエコシステムのもっとも特徴的な点が「助け合い」だと感じました。
僕はカナダ滞在中、現地のテック系イベントやシアトルのイベントにもちょこちょこ参加したことがあります。しかしそういった “本場” のスタートアップ業界ともかなり異なり、スウェーデンのそれは人によって合う合わないがあるのが実際のところだとも感じていました。
また近々アメリカのスタートアップ業界とスウェーデンのスタートアップ業界との違いの回を設け、色々な方の話もご紹介しながらお話したいと思います。