スウェーデンのスタートアップ環境について、メールでご連絡いただいた方に改めて説明する機会が先日ありました。

これまでは思いついた順にただ書き連ねたという乱文を公開していただけですので、改めてそのスタートアップ環境(スタートアップエコシステム)の成り立ちを、”産官学” という切り口でお答えさせて頂きました。

せっかくですので、その内容をこちらでも公開、さらには言葉でご説明(YouTube で公開)しましたので、よろしければご清覧ご視聴いただければと思います。

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 産官学

スウェーデンの首都ストックホルムは、現在「北欧のテックハブ」と呼ばれるほど、非常に多くのハイテク関係のスタートアップが創業され続けています。

僕がスウェーデンに滞在していた頃は、ほぼ毎週スタートアップ関係のイベントやワークショップに参加していたので、その盛り上がり方は実際に肌みで感じていました。

そして、僕が去って以降も、スタートアップを対象とした新たなコワーキングスペースやイベントなどが増え、その盛り上がりは現在に至っております。

僕はスウェーデンに行く前にも北米に1年強住んでいて(あとイギリス&ドイツにも約半年)、その頃にも起業が盛んなアメリカ・シアトルやカナダ・バンクーバーでスタートアップ関連のイベントやワークショップなどに参加し、何が起こっているのか常にチェックしていました。

その経験から言っても、スウェーデン・ストックホルムのスタートアップに関しての盛り上がり方は、これらの都市のそれに全く引けを取っていないと感じるくらい活発でした。

では、どうしてこの小国スウェーデンの首都ストックホルムが、北欧における起業のメッカ(聖地)のような場所なったのか?

それはいくつかの要因や仕掛けが機能して実現されていて、1つだけこれだ!!と言うことは難しいですが、スウェーデンでその議題が挙がると必ず言及されていたことは、

スウェーデンでは、産官学が連携してそれぞれの役割を果たしたことが大きかった

ということです。



 官の働き

まず前提として触れておくべき点が、スウェーデン政府自身がもともと新たな技術や研究、そして事業の創出(創業)を国家運営の面で非常に重要な要素と位置付けてきたということです。

これは近年のスタートアップブームが始まってからそういった意識改革を行なったのではなく、数十年前からイノベーション創出のための部門を政府内に設け、積極的に起業を目指す人々を支援してきたという既成事実があります。

その政府自身がスタートアップを支援してきたという内的要因を語る上で外せないのが、

・成長政策庁(Swedish Agency for Growth Policy Analysis)
・イノベーション・システム庁(VINNOVA)

という2つの機関です。

 成長政策庁

成長政策庁はスウェーデンの成長政策を分析、評価、政府へ報告する役割を担う産業省傘下の国家機関で、スウェーデンの国際競争力強化、国内全地域における成長のための雇用条件の構築活性化などを目的とし活動している組織になります。

幅広い視点で国外・国内の経済成長やそれに関わる要因を分析し、とりわけ ”イノベーション”と”スタートアップ” を成長実現のための最も重要な要素と捉え、その発展に力を注いできたとされています。

彼らが行なってきたスタートアップ支援には、提出されたスタートアップアイデアに事業化出来る可能性があると判断された場合、それに目処をつけるためのワークショップ講座やアドバイスを受けられるサービスを提供。

また国内で最もポテンシャルが高いと判断されたスタートアップ には、Startup Sweden と呼ばれるブートキャンプ型アクセラレータープログラムで、企業や投資家、金融機関などとスタートアップがネットワークを広げる機会を与えサポートしたりしております。

この Startup Sweden というプログラムに選ばれたスタートアップは、スウェーデン最大規模のデジタル企業カンファレンス Sweden Demo Day というイベントで、優先的に公的投資機関やプライベート投資ファンドとミーティングを持つ機会にも恵まれます。

スケールアップのための資金調達面で有利に働くように、成長政策庁が仕掛ける心遣いの1つのようです。



 イノベーション・システム庁

イノベーション・システム庁もその名の通り、国内のイノベーション創出活動をバックアップする政府官庁です。

政府研究開発資金の配分という重要な役割を担い、年間約27億スウェーデンクローナという巨額の資金提供をあらゆる産業に行なっています。

重要な点は、スウェーデンではベンチャーキャピタルや官民の基金からも政府が資金を集め、発表されている最新のデータでは、2019年の R&D 投資計画は370億スウェーデンクローナとし、その数字は毎年増え続けています(The Provisional Budget of 2019)。

実際、ベンチャーキャピタルによる投資額も毎年更新されるなど、特にここ数年はスウェーデンのスタートアップ含めたイノベーション分野への投資は加熱していたと言えます。

そんな年間約27億スウェーデンクローナもの大金を扱う官庁ですが、彼らの投資判断を左右するベンチマークの1つが「それがどれだけ社会にインパクトをもたらし、価値となりうるか」という点のようです。

1度スタートアップイベントで VINNOVA の方と話した際には、「黒字転換が近い将来見込めるかどうかよりも、例えば環境問題を解決するような社会にインパクトをもたらすプロジェクトの場合は、積極的に投資していく姿勢を持っている」と答えられました。

政府の一部門がこのようなリスクを取る姿勢を持っていることに驚かされますが、僕が伺った時分は世界中がスタートアップブームでマイナス金利の影響もあり、じゃぶじゃぶに余り余った資金が投資先を探しているような状況だったため、こういった強気の発言が可能だったのかもしれません。

ただ、彼らのスタートアップやイノベーションへの熱意というものを感じる場面は他にもたくさんあり、例えば、毎年750社を選出して、彼らが取り組む技術革新活動を表彰、そして研究開発や法的コストに対する名目で資金援助を行ないもします。

彼らがリスクを取って積極的に投資する動きを見てきて感じるのは、ポテンシャルの高いプロジェクトを資金的な理由で中止するような “もったいない” 状況を減らしたいとうい思いが強いことと、その投資がうまく回ってスタートアップが成長し、やがて社会に “雇用や歳入などの恩恵” として返ってくることを、強く信じているということです。

要は目先の金ではなく、長期目線でスタートアップやイノベーションへの投資を行なっているということです。 

国が管轄する庁から資金提供を受けるのはそうそう簡単ではないことが予想できますが、プロジェクトが下の要件を満たし、経験豊富な外部のビジネスマンがプロジェクトの内容をチェックして投資するかどうかを決めるようです。

ファンディングを受ける確率は16〜20%とそこまで低くない数字を示していますので、現実的にチャレンジしがいがあるというのが周囲の人達の感覚でした。

 (ファンディングの要件)

・商品化の可能性が高いこと
・社会に及ぼす影響や利益が大きいこと
・ビジネスモデルがユニークであること
・チーム体勢が万全なこと
・企業ビジョンが魅力的であること

 地方自治体

これら成長政策庁とイノベーション・システム庁というのが、スウェーデンのスタートアップエコシステムを語る時に必ず言及される政府系の機関になります。

さら他にも地方レベルで言えば、ストックホルム市が大学や民間企業と協業して、スタートアップを支援するインキュベーター(STING)を立ち上げ現在までたくさんのスタートアップを世に送り出してきたという実績があります(このインキュベーターに関しては次回)。

この産官学共同で立ち上げているインキュベータープロジェクトなどにも、やはり VINNOVA が関わり、イベント開催などを支援しているなど、官庁のハンズオン精神が強いことが伺えます。

このように国の産業省傘下の部門が、スタートアップをサポートするためのサービスやプロジェクト、イベントに積極的に関わっているのがスウェーデンです。

官庁自らが国のスタートアップ業界を盛り上げたいという意志が強く感じる動きが数多く見て取れました。

また、この他にもIT インフラが整っていることや、起業手続きが簡素化されているなど、起業し易い環境を国レベルで整えていることなどを挙げれば、また様々な要因が他にも見えてきます。

しかし、やはりスウェーデン・ストックホルムの起業環境の軸にあるのは、この2つの官庁が中心となって様々なスタートアップをサポートするサービスやプロジェクトが展開されている。

またそれが地方レベルまで広がりを見せている点が特筆すべき点だと思います。

今回は、スウェーデンストックホルムのスタートアップエコシステムを形成してきた産官学の連携、官の部分についてでした。

次回は民間企業に当たる、”” の分野についてご説明したいと思います。