スウェーデンの大学院留学中、クラスに異彩を放つ男がいました。
身長190オーバー、異常に低いピッチ(声の音程)、ハンガーのような肩幅、熊のような腕毛。
さらにクラスメートが、「あいつ格闘技経験があって、むっちゃ強いらしいよ」と、中学生みたいな会話の中で番長扱いされたりも。
名をトビアスと言いました。
トビアス先輩は正真正銘スウェーデンの元軍人さんで、ウプサラに来る前はなんとか隊のなんとか隊長を軍内で張っていたそうです。
リーダーシップ関連の授業では、異色の経歴を持つため、度々講師から「軍人目線では」と意見を求められ、「それがしは …と感じるである」と硬派さを際立たせていました。
ちなみにトビアス先輩は僕より全然年下ですが、先輩と表現してしまうなほどオーラのある方でした。
僕は尊敬の意味で話しかける時はいつも「ジェネラル(将軍)」と呼んでいました。
徴兵制復活
ウプサラ在学中に驚いた出来事の1つが、スウェーデン国内の「徴兵制復活」という話題でした。
2014年のクリミア併合以降、ロシアは周辺国との(軍事)境界線ギリギリで訓練を行なったり、戦闘機を境界線まで近づける挑発行為を繰り返し行なうなど、特に地理上近い北欧国々では、ロシアによる軍事脅威が増していました。
こういった度重なる挑発に対して、スウェーデンがとった対策が徴兵制の復活でした。
福祉大国であるがゆえにリベラル国家と見られがちですが、”国力”という言葉が軍事力も含むことをよく理解しているのだと、現地人との会話ではよく感じていました。
それでもこのアクションの速さと決断力には驚きましたし、島国日本で育った自分自身が平和ボケしていることをあらためて認識させられました。
離職率の増加
スウェーデンの徴兵制復活関連の情報では、おもにロシアの軍事脅威論やヨーロッパで頻発していたテロリズム脅威論が取り上げられてきました。
でも実は他にも語られていない事実があると、トビアス将軍が教えてくれました。
彼が軍隊で最も苦労していたのが、人の教育と確保だったんだそうです。
意外ですが彼が所属していた隊のメンバー間で頻繁に議論されていたのが「最近の若い奴は…」論でした。要はすぐ辞めてしまうことが問題となっていました。
トビアス将軍
「軍人1人を育てあげるのにはすごくコストがかかるんだ。単純に彼らに与えられる給料や手当てだけじゃなく、訓練に使った装備品や武具。それから1人、2人辞めたことでもう1度隊列を組み直す必要があり、隊として習熟度が高まるまですごく時間がかかる。また、他の隊員のモチベーションが下がって組織としての質が下がるのも目に見えた。スウェーデンの軍はそういったことまでコスト計算しているからその辺のマネジメントが大変だったんだ。」
今回の徴兵制の復活は「戦争に備えて」というものではなく「人員確保」というのがおもな目的だそうです。
この問題は新たな施策によって解決されるのか気になるところです。
補足情報
・スウェーデンの人口:約996万人
・軍事支出 GDP 比:1.0%(2017年)
・全兵士総数:43,875人(現役兵:21,875/ 予備兵:22,000)
・軍は正規+非正規隊員で構成
・2018年度:4,000人を徴兵
Source: The World Bank, Global Fire Power