スウェーデンでも近年ストックホルムを中心に、主に IT セクターでテックスタートアップブームが巻き起こっています。スタートアップ企業だけでなく、それらのサポート役であるコワーキングスペースや、インキュベーター、アクセラレーターもサービスを拡充させており、豊富なエコシステムが出来上がりつつあるのです。

LINK【なぜスウェーデンでは起業が盛んなのか?

こうして産業界が盛り上がりを見せる中、教育界でも1つのブームになりつつあるのがアントレプレナーシップの単一プログラム化です。先陣をきったのが南のイノベーションの都市 Lund に拠点を置く Lund 大学で、それから追いかけるようにUppsalaや KTH, Chalmers などの大学がアントレコースを設けました。

この流れはスウェーデンだけでなく世界的な潮流のようで、アメリカ・イギリスでもそれまでは MBA の1科目だったものが、単一プログラム化して多くの大学が修士のアントレコースを提供しています。



スウェーデンのアントレ提供大学一覧

スウェーデンで修士のアントレコースを設けているのは

▪️1年プログラム
・Linnaeus
・Uppsala
・Lund
・KTH

▪️2年プログラム
・Jönköping
・Halmstad
・Chalmers
・Gothenburg
・Karolinska 

の計9校となっています。皆さんからよく聞かれるのが「この中でどの大学が一番 “質の高い”(アントレ)プログラムを提供していますか?」という、非常に難しい質問です。

僕自身が1つの大学でしかプログラムを受講していないので、正確に比較することは出来ずこの質問にお答えすることは無理だと思います。また、その年によってクラスメートの雰囲気や、講師なども変更があるため正直に言って “” だとさえ思っています。

ですがそれでは何もおもしろくないので、あくまで僕の経験と私感で滞在中に知ったことや、おすすめを少しお話し出来ればと思います。

(各校の授業料の比較についてはこちらの記事をご参照下さい。)

LINKスウェーデン留学は高い?米英と比較してみた

アントレプログラム受講者の感想 ~KTH編~

現地滞在中、いくつかの大学でアントレ受講中の生徒さんや、コースの卒業生の方とお話出来る機会がありました。

KTH: 友達の旦那さん
Lund: スタートアップイベントで一緒になったチームメイト
Chalmers: スタートアップイベントで一緒になったチームメイト(当時卒業生)
Karolinska: SUP46時代のチームメンバー、友人1名(卒業生)

といった感じです。彼らから直接うかがったコースの感想や内容をお話します。

KTH

KTH のコースは聞いていて非常にトリッキーだなと感じました。というのも、単一プログラムでありながら、他コースの生徒も一緒に受講できる授業が初期に組み込まれ、「いったいこの中で誰が俺のクラスメートなんだ?」と友達の旦那さんは最初から困惑しまくっていたからです。

またある科目に関しては、授業の進め方や内容ががきちんとデザインされておらず、最終的にはクラスメート複数名と抗議レターを学校側へ提出したそうです。

「相当やばいな …」と話を聞いていて思いましたが、後半のセメスターでは討論主体の授業やプロジェクトに取り組む機会も増え、最終的にはコース内容は改善していったようです(か、もともとその予定だったようです)。

KTH はスウェーデンきっての有名工科大(王立ですからね)ですが、アントレのクラスメートで工学をバックグラウンドに持つ人はいなかったそうです。そのことからも、工学などの特殊な知識やスキルが選考で必要なわけではないということが推測出来ます。

一方、KTH は Stockholm School of Entrepreneurship という、ストックホルムに拠点を置くスタートアップ促進団体のメンバー校の1つですが、それらとコラボして取り組む企画などは特になく、基本的にはそういった団体とは切り離されたプログラムだったようです。

聞いていて個人的にそこまでワクワクするような内容のコースではなかったというのが本音です。



アントレプログラム受講者の感想 ~Lund編~

Lund のアントレプログラムはこれまで “スウェーデン国内で出願される全修士プログラムの中で、トップ5に入る志願数” を数年間連続で獲得してきました。言わずもがな最も Success Rate の低いプログラムの1つで、本当に難関です。僕も2度トライしましたが2回とも落選しました(うち1回は Waiting number 1 で落選し、ええおっさんが泣きかけました)。

ではなぜ Lund だけアントレプログラムがずば抜けて人気が高いかというと、そのプログラムのデザイニングに特徴があるといえます。豊富なファンディングをバックに、プロジェクトで様々な施設を利用したり資金が投入されたりと、実践さながらの経験を生徒に植え付けることに注力しており、基本的に他大学のアントレとはかなりの差があると感じました。

詳しくは「スウェーデンで1番実践的なアントレプログラム」という回を近日中に設け、そちらでご説明したいです。しかし、それだけプログラムが他と比較して充実していても、実際に受講中の生徒さんの意見は意外にも Complaint でした。

「確かにプログラムは良いと思うんだけど、本当に Lund ってすることがないんだよね〜。近くに Malmo があるっていうけど、ダイナミックさでいうとストックホルムとは比較にならないよ。やっぱりそういう現実のビジネスの世界と接していたいってのはあるじゃん?」(スタートアップイベントで知り合ったプログラム受講者)

Lund にどうしても進みたかった者としてはこの意見は意外だったのですが、一方で課外活動でもスタートアップ関連のアクティビティに携わりたい欲はどこへいっても人は持つものだと再認識した瞬間でした。

しかし、やはり色々な方と話してプログラムそのものは Lund が頭1つ抜けている感がありましたので、また別の機会でガッツリお話しします。

アントレプログラム受講者の感想 ~Chalmers編~

Chalmers 工科大学は KTH や Lund と異なり、2年間のアントレプログラムとなります。僕は Gothenburg で参加したスタートアップイベントで Chalmers アントレの卒業生の方と出会ったんですが、彼女自身テック系のスタートアップをローンチされていました。

Chalmers のプログラムは基本的に他と比べかなり異なります。Entrepreneurship and Business Design というプログラムの中で3つのトラック

・Intellectual Capital Management
・Corporate Entrepreneurship
・Venture Creation in Tech/Bio

に分かれています。卒業生の方と話して感じた他との大きな違いは、アントレでありながら基本的にはテクノロジーに関連した授業でプログラムが構成されているということです。

少し飛躍して解釈しているかもしれませんが、「スタートアップで勝負できるテクノロジーをすでに持っていることが前提」で、テクノロジー主導型のスタートアップを軌道にのせるには、技術を守るための知的財産権のマネジメント、特許、ブランディングなどの授業展開が行なわれ、僕が経験したウプサラのアントレとはかなり内容が異なるようでした。

Chalmers も有名工科大学ですので、そういった技術に対する感性が鋭い証拠なんだと思います。僕が出会った卒業生の方もコードが書けたりと IT 系のバックグラウンドがあるようでしたが、他のクラスメートもこのように特殊な知識やスキルを持つ人が多かったようです。

ですのでプログラムを受講する生徒さんは他大学のアントレと比べ “工科大” 的な特色が強いのかもしれません。ただ、専門性を持っていることが選考上必須なのかどうかは分かりかねますのであしからず。



アントレプログラム受講者の感想 ~Karolinska編~

Karolinska は世界で最も著名な医科大学の1つで、こちらも Bioentrepreneurship という生命学などに特化したアントレプログラムを設けています。

僕はスウェーデンでよくお付き合いさせてもらっていた友人1人が Kalorinska バイオアントレの卒業生で、 SUP46 で中の良かったメンバーも在学生でしたのでよくプログラムの話を聞いていました。

1つ言えることはバックグラウンドに生物医学、薬学、ヘルスケアなどを持ちスタートアップを考えている人は多分みんな Karolinska を希望するのではないのかな?ということです。

彼らは資金面も豊富なだけでなく、スタートアップ活動に対する学校側のサポートも手厚いことから、卒業生の多くがその後バイオ系のスタートアップを立ち上げます。学校の名声が高いことも資金獲得面などで相当有利に働いていると友人は触れていました。

またその友人2人とも卒業後はバイオに関連したテック系のスタートアップを立ち上げ、日々プロジェクトと格闘しているようです。

もう1点 Karolinska が特徴的なのが、 Bioentre コースの Almuni ネットワークが非常に強固なことです。Linkedin などの SNS 上で親交をはかるだけでなく、実際にプロジェクト進行過程である分野での助けが必要な場合、互いのネットワークを駆使して共に助け合う文化があるようです。

去年ある日系新聞社の方から現地のスタートアップ情報の提供や、大学などの研究分野からスピンアウトしたスタートアップの紹介をお願いされた際、友人を通して Karolinska Bioentrepreneurship Almuni Network を統括する方を紹介しました。その際色々な活動内容を僕も聞いたのですが、その繋がりは他とは比較出来ないほど濃いものでした。

他大学のアントレプログラムは卒業生同士の関わりがないことが一般的ですので、Karoliska は卒業後の起業まで見据えて独自のコミュニティを形成している点がやはり特筆すべき点だと思います。 バックエンド(学校からのサポート)とフロントエンド(既に起業した卒業生からのサポート)が共に強い Karolinska Bioentrepreneurship Ecosystem です。

もちろん両名共プログラム自体には満足したとはっきり言っていました。

LINK【医学系世界トップクラス】カロリンスカ医科大学(研究所)のスタートアップ事情を卒業生に聞いた!

アントレ教育番外編

先ほど KTH の説明の時に Stockholm School of Entrepreneurship (SSE) について少し触れました。SSE は

・Karolinska Institute
・KTH
・The Stockholm School of Economics
・Stockholm University
・Konstfack (The University College of Arts, Crafts and Design).

から構成される、スタートアップやイノベーション系のプログラム(ワークショップ)をメンバー大学の学生に提供するスタートアップコミュニティになります。起業家精神育成や起業に関わる経験を疑似体験しその経験値を高めることを目的としていますが、上記6大に属する者であれば基本的に SSE が企画するイベント全てに無料で参加することが出来ます。

こちらの SSE のイベントは内容的に本当に充実しており、本来であればきちんと fee を払って参加するような充実したプログラムが、6大の生徒及び卒業生だけ参加可能なのです。

「お金を支払うので参加させてもらえないでしょうか?」とへりくだっても断られます(僕)。さきほど KTH であまりプログラムに対し良い印象を持たなかったと言いましたが、ストックホルムの大学に席を置くことはこういった別の恩恵を受ける機会が多々あります。

そういったことを考慮して所属大学を決めるのもまた大きなポイントだと思います。くどいですが、学校のプログラムと同じくらい課外活動面で充実していたいとみんな感じるようになるからです。

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