こんな都市伝説がありますが、実は本当です。しかも学校教育のいちプログラムとして取り扱われており、最近では日本の新聞でもとり上げられることが多いです。
その起業プログラムの名前は Company Program(UF-företagande)といい、大学のアントレ教育も顔負けの実践的なスタートアップです。 いや、”実践” という意味では完全に負けてるな。
幼い頃から実践的起業家教育を提供することが、チャレンジ精神旺盛な国民性を作り上げることに繋がると国は考えているようです。
ベンチャー企業の隆盛がスウェーデン経済の活力源と考えられていることからも、年齢の幼いうちからスタートアップ経験を付けされる教育プログラムの提供は、自ずと必要な政策だったのかもしれません。
今考えてみると僕がウプサラに在籍していた時、驚くほど多くの学生が何らかの事業を運営していたことに気づきました。
それは国が力を入れている IT 分野だけでなく、例えばアルコールの製造販売、ファッショングッズの製造販売、時計、スケボーなど、その製品やサービスの中身も多岐に渡っていました。
以前にも述べたように、スウェーデンは1990年代から戦略的研究開発や起業を産官学一体となって推し進めてきました。現在人口1人あたりの起業数は日本の約4倍といわれ、ヨーロッパでも注目のスタートアップハブとなっています。
Company Program (UF-företagande)
Company Program は Junior Achievement という NPO 団体によってスウェーデン全土に提供される起業家育成プログラムで、その歴史はなんと1980年から始まっているようです。
Company Project に参加する学生は事業計画から法人設立、商品販売、納税、さらに学校を卒業する頃には事業清算まで行なうのだとか。清算まで経験することにより、自分たちの事業がストップすることでどれだけ社会に影響があるのか(取引先や顧客に与える影響やその対応など)を学ぶ意図があるのだそうです。
結果として、現実の世界で使える問題解決力が著しく向上し、早い段階で社会人になる準備が出来ることもこのプログラムを受講する1つのベネフィットのようです。
僕が驚いたのは、このプロジェクトが高校生向けのみならず、日本でいう小・中学校にあたる基礎学校の学生にも提供されている点です。
子供だから「出来ないとか難しい」という既成概念には捉われず、自由に教育を受ける機会を与えるところがスウェーデンらしいと感じました。
Peter Drucker もアントレ精神は教育を通して養うことが出来ると明言していますが、それを実行しているのがスウェーデンなのです。
毎年25,000人の高校生が参加
この Company Program、今ではスウェーデン社会に深く根付き、毎年高校生だけで25,000人が参加し数千の新たな企業が生まれるようです。学校在籍時に継続して事業が運営されるため、期間限定のプロジェクトという位置付けではなく、本物の経営経験が蓄積できると評判は凄く良いです。
僕の友人でもこのプログラムに参加経験ある人は多く、学生時代に忘れることの出来ない経験の1つだったと教えてくれました(Uppsala Ekonomerna の人達)。
ちなみに学生がこのプログラムに参加するには、事業化するアイディアを持っておく必要があります。
その後、
- Ung Företagsamhets website に登録
- 登録費用 300 SEK を支払う(1人あたりでなく1社あたり)
- 会社名を正式に記す(銀行口座から登録量を支払う際に明記する)
- プロジェクトに取り掛かる
という手順で学生の起業活動がスタートします。
Ungforetagsamhet によれば、Company Program の規模は毎年拡大中のようで、こちらは 2016-2017 の状況です。
- Junior Achievement スウェーデン国内支社数: 24 (24)
- 学生企業の数: 8,603 (8,243)
- 毎年新たにプログラムに参加する学生の数: 27,769 (26,430)
- Company Program で活動する講師の数: 1,657 (1,648)
- 学生企業を支えるメンターの数: 8,991 (7,420)
- Company Program を提供する学校の数: 581 (607)
- 1980 年から Company Program に参加した生徒の数: 約 350,000
*2016 – 2017 (2015 – 2016)
さらに毎年その年で最も優秀だった学生スタートアップを決める選考会も催され、Company Program に参加する学生の “経営” に対するモチベーション向上に繋がっているようです。
実際にこの選考会では事業のピッチを行ない、次のステージに向かう上で必要なリソースを募ったりと、もう完全に大人のスタートアップ活動と同じです。
こういった経験を積んだ上で大学に進学したり働き出したりするわけですから、当然その後の “学び” のスピードが普通より早いことが容易に想像出来ます。
また Company Program で始まった学生スタートアップの事業内容も本当に多種多様で、学生の発想力には驚かされます。
nEthics
nEthics は基礎学生向けに有料でサイバー犯罪防止のための講義を提供する企業として、4人の高校生によって立ち上げられました。
IT の進むスウェーデンでもインターネット犯罪は社会のテーマとして重く捉えられ、それに取り組む学生スタートアップとして高い評判を得たことで知られています。
非常に多くの方が彼らの活動を後押ししていたことから、ビジネス拡大も検討し2015年に日本へも市場調査に訪れていたようです。
(現在は活動停止)
Adelsö Design
Adelsö Design はこれまで日本の新聞でも取り上げられたことのある、3人の高校生によって立ち上げられた家具の学生スタートアップです。
CEO の Kevin さんは彼のお父さんが大工さんであったことから、木材を使ってモノづくりをするこの業界にもともと興味がありました。
彼は Adelsö Design を立ち上げる前から、自分でテーブルなどの家具をデザインし、それをネットに上げていました。多くの人からそのセンスを褒められるようになり、家具会社を立ち上げるため Company Project に参加したようです。
2016年から家具のオーダーを開始し、その直後に10件のオーダーを受けるなど、プロとしての腕前を評価する声が最初からあとを絶たなかったそうです。
僕も数年間職人として働いていた経験があるので、こういった職に若者が従事するのを見ると嬉しく感じてしまいます。しかし本当に上手だな〜。
これら2つのスタートアップはほんの1例に過ぎず、スウェーデンでは高校生によるユニークなスタートアップが本当に無数に存在します。
選考会の様子も映像で見たことがあるのですが、盛り上がりが凄まじく「これはモチベーション上がるわ」と Junior Achievement の活動に頭が下がりました。
彼らの活動は単にスタートアップ文化を盛り上げようとするだけでなく、新たなことにチャレンジする重要性を若者に説いているように感じました。
Company Program は非常にスウェーデンらしい、チャレンジ精神旺盛な教育プログラムです。