12月19日、スウェーデンの中央銀行にあたる Sveriges Riksbank(スウェーデン国立銀行)が、政策金利を現在のマイナス0.25%から0%に引き上げると発表しました。

家計の債務膨張に歯止めがかからず、景気と物価は勢いを欠くなか、世界で初めてマイナス金利を導入したスウェーデンは、異例の緩和策にストップをかけることとなりました。

このマイナス金利政策、日本やヨーロッパの中央銀行が採用して久しいですが、個人の家計のみならず企業の経済活動においてもだんだんと副作用が顕在化してきた印象があります。

しかし、やはり我々個人が一番損を食っている政策であると、個人的に感じています。

本日は、マイナス金利を脱却していくスウェーデンと日本の状況を見ていきたいと思います。

 世界初マイナス金利導入はスウェーデン

世界最古の中銀であるスウェーデン国立銀行は、2009年に一部の政策金利をマイナスとし、日本同様デフレ回避を目的として、マイナス金利を導入しました。

2015年2月には主要政策金利もマイナスとし、世界に先駆けて大胆な金融政策を打ち出した国として、世界から注目を浴びます。

金利引き上げが決められたのは、国内の景気や物価改善が見込まれたためでなく、景気の現状を映す製造業購買担当者景気指数(PMI)が、11月に7年ぶりの低水準まで下落。さらに物価上昇率も1.7%と、目標の2%には当面届かないことが裏付けられためであり、これ以上マイナス金利を続ける大義名分が失われたことが大きいようです。

そして、さらにマイナス金利脱却を後押ししたのが、その副作用が無視できない水準まで高まってきたことがあります。

スウェーデンの家計債務は*可処分所得の1.8倍を超え、住宅バブルだった07年の米国の水準(1.4倍)を上回りました。スウェーデン国立銀行が「スウェーデンの家計が重い負債を抱えている」と公にしたことも波紋を呼んでいます。

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家計が負債を抱えている状況が、経済環境に敏感に反応していることも国立銀行に触れられましたが、実際スウェーデンの住宅価格は、マイナス金利導入で高騰が続いた後、2018年頃からは不安定な動きを見せているようです。

ちなみに僕の友人はこの頃ストックホルムのアパートを高値で売り抜けられた(スウェーデンの中古物件はオークション制)と言っていました。

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*可処分所得・・・給与やボーナスなどの個人所得から、税金や社会保険料などを差し引いた残りの手取り収入のこと。



 通貨安 ≠ 輸出主導型経済に恩恵!?

さらに、マイナス金利がもたらした「通貨の下落」も決断を促したことを、日本経済新聞は指摘しています。スウェーデンは日本と同じく伝統的に製造業が強く、輸出主導型の経済でした。自動車、家電など日本とかぶさるセクターも多いです。

しかし、最近では IT 企業の台頭などで産業構造が様変わりし、通貨安を求める声は弱まっていたようで、

「マイナス金利は本当に中長期的に国の経済・物価にプラスになるのか?」

という声が強まっている模様です。日本においてもこの点は同様でしょう。円安で収益を伸ばした大手製造業も、国内への設備投資には慎重で、結果として海外投資(設備投資)、M&A、、自社株買い、スタートアップ企業への投資、内部留保へとお金が向かい、社会への還元が薄まっていることが挙げられます。

さらに、マイナス金利は企業や家計の借り入れコストを引き下げて経済を活性化させる一方、銀行収益の低下や年金運用の悪化、収益性の低い「ゾンビ企業」の延命といった副作用を伴うことも日経新聞は指摘しています。

この点、個人的に激しく同意する部分です。

これまで多くの経営者、学者が日本経済の問題点として「産業構造の転換」や「プレイヤーの循環の悪さ」を挙げてきたにもかかわらず、今だに生産性の低い、非効率的な企業・業者を延命させている状況にあるからです。

努力して自らの余剰資金で生産効率を高める企業がいるなか、借金まみれで開き直るかのごとく意味のない安値競争を仕掛ける企業。

どれだけ差別化を図っていても、そういった安値競争を図る業者をネタに、最終的に価格競争に巻き込まれる(上が巻き込もうとする)のが現実なのです。

そして、一番のロスは実力のある企業がそういった消耗戦から退場するために(あほらしくなり)、事業閉鎖したり、撤退を決めたり、社会から技術やノウハウが失われていくことなのです。

真面目に実力と資金をつけてきた業者は辞める選択をし、実力も資金もない業者が真っ赤っかになるまで生き残ろうとする光景を、これまで幾度となく見てきました。

 パンドラの箱を開けてしまった各国

マイナス金利政策は、このプレイヤーの循環をさらに悪くする力学がはたらいていると、僕は確信しています。

一方で、多くの中央銀行にとって、ほかに有効な緩和策が見当たらないなか、マイナス金利政策を簡単には捨てられないというのが本音のようです。

国債などを大量に購入する量的緩和も、市場に出回る国債の枯渇という限界に突き当たっています。

マイナス金利政策を断念して利上げに動けば、通貨高が進んで景気や物価に悪影響を及ぼすという問題もあり、通貨高への警戒が強いユーロ圏や日本では、マイナス金利脱却へのハードルは高いのが実情のようです。

国家がパンドラの箱を開けてしまったというか、中毒性の強い薬物に手を出してしまった感が否めません。

 日本のマイナス金利政策

日本におけるマイナス金利政策導入を、もう1度おさらいしてみたいと思います。

2016年1月29日、日本銀行が「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」導入を決定し、大きな波紋を呼びました。

この発表直後から、最も収益性の低下が予想された銀行株が大暴落し、いずれ副作用が顕在化すると多くの経済学者がこれまで指摘してきました。

そのマイナス金利に最も苦しむのが地方銀行で、低収益化した事業モデルの穴埋めに、積極的に融資を行なうというのがここ数年の動きでした。

しかし、スルガ銀行をはじめとする無茶な貸し出しの反動がここへきて表面化しているようです。

 粉飾決算を導いたマイナス金利

収益確保を焦って融資の審査が甘くなり、粉飾決算を見逃して損失を被る例が後を絶ちません。住宅ローンでも個人の収入に見合わない貸し出しが増えているようで、間接的に国が個人に借金を負わせる構図が出来つつあります。

無理な融資は不良債権のリスクとなりますが、新たな収益元になり得るビジネスモデルを見つけられずにいる地銀は、融資を加速させることしか出来ないのが実情のようです。

日本経済新聞社の調べでは、東京都に本店があるきらぼし銀行は19年4〜9月期に、取引先の経営悪化に備える一般貸倒引当金の繰入額が7億4400万円と前年の2.7倍に。

その理由の1つが、融資先の粉飾決算による焦げ付きのようです。「取引先への疑いよりも他行との競争に力を注いでしまった」と同行職員は語ります。

マイナス金利により、貸し出し金利が下がり利ざやが縮小。収益性の悪化を量で補おうとする地銀は、結果として無理な融資を増やし問題が表面化しているかたちとなります。

東京商工リサーチの調べでは、2019年1〜10月の粉飾決算が一因となった倒産は16件となり、このまま年20件を超える数値となれば、2000年以降で6番目に高い水準になるようです。



 八方塞がりの地銀

さらに日経の調べでは、関西の地銀の行員の間で、住宅ローンの申し込みの際に、「投資信託とのセット申し込み」を売り込む営業手法が横行しているようです。謳い文句は「投信と一緒に申し込めば、稟議が通りやすくなることが多いですよ」。

ここ数年爆発的に増える投資信託残高と、新築戸建件数の増加に説明がつきます。

2019年9月末時点では、地銀103行のうち約8割で前年同期末より住宅ローン残高が増え、全体の残高も4%増加。

給与振込口座とひも付き、長期の取引につながる住宅ローンは魅力ある商品な一方、実際は「住宅ローン単体では赤字」であることが多く、3メガバンクは住宅ローン残高を9年続けて減らしているようです。

金利が低くて経費をまかなえないことが主因とメガバンク幹部は日経の取材に答えています。

現実、残高を伸ばしている地銀も、十分な利幅はないというのが業界の一般的な見方で、低下していく収益に焼け石に水状態のようです。

 住宅ローン地獄を助長するマイナス金利

近年、アパート経営破産問題と同様に件数が増えているのが住宅ローン破産問題ですが、これは地銀ではなく “” の国民(若者)に借金を背負わせて “お金” を吐き出させるスキームの1つだと僕は見ています。

それを裏付けるかのようなデータも露わになってきました。

住宅金融支援機構の調査では、2018年10月〜19年3月に借りた住宅ローンで返済額が年収の25%を超えた世帯は2割と、2017年の14%から急増。一般的には適正水準は20%までとされるため、この数値は異常であると言えます。

僕は独身で家庭を持っていないため、何を言ってもブーメランで返ってくることは分かっていますが、それでも言いたいのは、知人や友人がここ数年で組んだ住宅ローンの額は、住宅金融支援機構の調査の通り異常だったということです。

都会においては、¥5,000万〜¥6,000万(35年)借り入れはざらで、高い買い物をしたという意識も持ち合わせていない印象です。なぜなら「皆やってるから」というものでした。

元本、金利、固定資産税、十数年に一度やってくる補修費用(今後は職人減で費用はさらにかさむ)。ここに被さってくるのが、高騰した子供の教育費や将来的な親の介護費用など。増税、社会保険料・健康保険料の増額、想定外のこと(失職や病気、災害)、老後¥2,000万問題まで含めれば、¥5,000万の住宅ローンは現代の我々の所得状況には全くもって見合っていない額だと言えます。

国の唯一の独立系住宅ローン保証会社、全国保証によれば、2019年4〜9月の新規保証額は前年比で14%増。「銀行が自社で保証しきれなかった分が流れた」(銀行関係者)との見方が多く、身の丈(収入)を超えた融資が横行しており、スキームはアパート経営などと対して変わらないという印象を受けます。

 借金 = 働くインセンティブ

「地銀は貸し出しで地方経済を支える」と言います。2008年の金融危機以降に定められた中小企業金融円滑化法に基づき、返済猶予などで中小企業を支えてきました。

結果として、ここ地銀による民間への貸し出しの伸びは大手銀行を大きく上回ってきたようですが、上場する78の地銀・グループの2019年4〜9月期は、前年に不祥事で巨額の赤字を計上したスルガ銀行を除くと、連結純利益が前年同期に比べて7%減ったと伝えられています。

貸し出した方も儲けていなければ、前章で述べたように、実力の伴っていない企業が新たに借金するアテができ、ゾンビ企業を増殖させ、能力のある健全企業を弱らせるまたは退場させるという本末転倒状態にあることが分かります。

日銀によると、地銀が融資先の倒産に備えて計上した貸倒引当金の残高は、2019年9月末に1兆7289億円(前年比4.6%増)。また不良債権問題が金融機関を悩ませているのが浮き彫りになりました。

日経が最後に指摘するのは

他銀と同じように地域に密着する信用金庫の貸倒引当金残高は18年度末も前年を下回った。信金も融資の環境は厳しいが、余裕のある資金は中央団体の信金中央金庫に預ければ利息が付く。地銀はこうした仕組みがなく、余裕資金を日銀に預ければマイナス金利になる可能性がある。地銀の方が融資に目が向きやすいとの指摘は多い。

無理な融資は必ずひずみを生む。地銀が適切な金利で企業や個人と向き合わなければ、いずれ地方経済の大きなリスクになる。

という部分でした。

住宅ローン、ゾンビ企業への貸出&不良債権化と、マイナス金利によって生み出された副作用はこれだけに止まりません。

新たに小規模事業(飲食、美容院、etc)を起す人にも、地銀が容易に融資し、国の規制緩和と相まってそういったサービス事業者が爆増、飽和、衰退という現象が確認されています。

結果的に損をみるのは、長年その業界で仕事をしてきた事業者達で、価格競争という形で最終的には過当競争に巻き込まれます。

しかし、これら全ては国民に借金を負わせ、「返済のために働き続ける」という「国主導のインセンティブ」であることから、この状況はしばらく続くことが予想されます。

超高齢化社会で衰退期に入った日本において、目先のかね(税収)なくして国家の存続は不可能と政治屋・官僚は考えているのでしょうか。

Source: 日本経済新聞