気合を入れて臨んだウプサラアントレコースの一発目 Foundation of Entrepreneurship で出鼻をくじかれます。総花的な授業内容でかつ掘り下げるわけでもないので、職歴の長い者からすると「ダメだこりゃ」でした。

講師も適当さと自信の無さが相まって言いたいことがはっきりせず、ただただ虚しく1ヶ月が過ぎました。

LINK【ウプサラアントレ】Foundation of Entrepreneurship(消)

大学院の授業がそんな絶望的な状況ですので、割り切って僕は課外活動に精を出しました。皮肉にも所属先のスタートアップハブでの活動は色々な仕事を通してネットワークが広がっていき、非常に充実したものとなりました。

担当する仕事も本来の権限を超えて「俺でいいのか?」というものも増え、こちらの活動で本来得るはずだった充実感を補完するかたちになりました(「じゃあ学校やめたらええやん」と自問自答することも)。

そうこうしてだんだんと肌寒くなってきた頃、2科目目の Business Plan Catalyst が始まりました。


Business Plan Catalyst

Business Plan Catalyst は現在もプログラムに残る、第1セメスターのメインといえる科目です。通常5〜6名1チームで、2ヶ月間に渡りスタートアッププロジェクトに取り組みます。

そのスタートアッププロジェクトに対し、知識やセオリーを補完する意味で授業が展開されていきます。 

ところで、「スタートアッププロジェクトって何をするの?」と思われると思いますが、(スタートアップ)ビジネスプランの作成(MSワードで80〜100ページ)とそのプレゼン(ピッチ)を教員向け、スタートアップ企業向けに別々で行ないます。

もちろんアイディアのユニーク性から実現可能性など、コース進行中はメンターからびしばしツッコミが入り、最後のピッチでもプログラムディレクターやその他の講師陣から矢継ぎ早に質問が飛んできます。

そして何より組むチームで喧嘩が絶えなかったり、何事もなく済む場合と状況は多岐に渡ります。僕のチームはクラスで最も揉めたチームで、良くも悪くも充実した日々でした。

プロジェクト内容説明の前に、授業の様子を少しお話します。

授業風景

正直授業はもうおまけのようなもので、Foundation of Entrepreneurship 同様ガッツリレクチャースタイル、ノーインタラクテティビティ、ひたすら講師がパワポを読み上げていくだけです。しかもパワポを読み上げると予定より30分早く授業終了したりもします。

ただ講師(ポーランド人男性)はコミュニケーションを取るのが生まれつき苦手そうな感じだったので、意図的に適当にやってる感じではありませんでした。

またこの若い講師、英語のアクセントが強すぎて慣れるまでほぼ全員が「彼今英語だよね?」と授業中にも関わらずヒソヒソなってしまうレベル。

正直僕も「ロシア語かこれ?」と思うほど最初は聞き取れませんでした。無心でパワポを読み意味を理解します。

ただこれだけ授業そのものは「オワタ」レベルでも、不思議とこの科目自体に不満は残らなかったです。それは講師が他の部分で一所懸命になっていたのが大きかったと思います。具体的に言うと、

・配布資料(パワポ)がシンプルでよくまとめられていた。
・Assignment で配布される文献(ケーススタディ含む)がすごく面白く、文献チョイスのセンスが高かった。
・プロジェクトで中間報告、ディスカッション、フィードバックの機会が何度か設けられたが、メンターとして非常に厳しく、鋭い指摘をしてくれた。

ことが挙げられます。ディスカッションは部屋に入る前皆が緊張するほど殺伐として指摘が鋭く、また顔の表情がめちゃくちゃシリアスでした。名作ブラックレインの松田優作さんをなぜか思い出しました。

ちなみにこちらの授業も毎回文献を80〜100ページ読んでくる必要があります。 以前ご紹介したウプサラのスタートアップインキュベータ Drivhuset への訪問もこちらの講師が組んで下さりました。

LINK【DRIVHUSET】Daniel Wellington のCEOも注目!?のスタートアップインキュベーター



スタートアッププロジェクト

スタートアッププロジェクトはチーム作りから始まります(通常5〜6名)。その後、

1. オリジナルのスタートアップアイディア
2. 提示される(ウプサラ)スタートアップのビジネスモデルをベースにしたスタートアップアイディア

のいずれかに取り組みます。0からアイディアを組み立てるという意味で、1の方がハードルが高いです。

2に関して言うと、選択したスタートアップ企業と面談する機会をまず最初に設け、そこで彼らのスタートアップに関する説明を受けます。

そのビジネスモデルを理解した上で既存のビジネスに関連した新たなスタートアップを考えるという、イントラプレナー(Intrapreneur)的なプロジェクトになります。

僕は提示された中で不動産関連のスタートアップに興味があったのですが、クラスメート(ベトナム人男性)にひつこく懇願されて彼のスタートアップアイディアに一緒に取り組むことになりました。

Fitness 分野でのジムと顧客のマッチメイキングを目指したプラットフォーマー型ビジネスというのが彼のアイディアでした。しかし、この手のビジネスは先行しているプレイヤーがすでにいること、2ヶ月以内にタスク全てをこなすのはスケジュール的に厳しいこと、彼(ベトナム人)の性格がかなり難あり(横柄)なことから、僕と前述した Nataly 以外誰も話に乗ってきません。

結局、講師に反対されながらも3人でプロジェクトに取り組むことになります。ちなみに一番多人数のチームは7人でそれでも割と忙しいので、少人数だといかに1人頭の負荷が大きくなるか分かるかと思います。

プロジェクトの進捗

この2ヶ月間は授業以外は基本このプロジェクトに取り組むことになります。ミッションステートメントからスタートアップを取り巻く内外の環境(経済、政治、etc)、戦略、事業計画、サービスの中身、予算、商品やサービスのロゴやデザイン、さらには Beta バージョンのアプリの提出、外部開発メンバーの名前、職務経歴、費用などとにかく細かいです。

僕はそれまで業界の異なる2社で仕事の経験があり、両方で新規事業の立ち上げに際し事業計画書の立案と発表を行なったことがありますが、本当に変わらないぐらい事細かく突っ込まれるしやり直しのオンパレードでした。

3〜4日ペースで各章のリサーチ結果やビジネスプランをアップデート形式で提出していきます。週に1度個室でメンター(ポーランド人講師)と1〜1時間半のミーティングを設け、アップデートした章についてミニプレゼンし、鬼ツッコミが入ります。

当然書き換えや、リサーチのやり直し、時には1から作の練り直しなど緊張状態が続きます。


海外留学ならではの混沌

海外留学する醍醐味の1つが、取り組むプロジェクトでチームメンバーとそりが合わずバトルことだと勝手に思っています。ですので、「多分あるだろう、なかったらおかしいだろう」とさえ思い覚悟していました。

しかし実際に起こるとやっぱり大変ですよね。そしてやっぱり色んな意味で得るものが大きいです。僕たち最小人数チームも崩壊しかけるぐらい揉めに揉めました。

ここからは愚痴ではなくこんなことがよくあるという軽いノリで見てもらえたらと思います。

前述した通り僕たちは通常よりも少ない人数で、1からメンバーのスタートアップアイディアを昇華させる作業に入りました。現存するスタートアップチームの場合、事業環境(マーケットや TA セグメント)に関する情報があらかじめ用意されます。

ですので、スタートラインに立つのにまずこの作業を急ピッチで進める必要があり、しかも発起人の彼(ベトナム人)の意向でスウェーデンではなく、母国でのローンチを目指していたのでリサーチがさらに大変でした。

僕と Nataly は彼が「セメスターの後半にベトナムへ戻り、このスタートアップに本当に従事する。これは紛れもなく本当のスタートアップ活動で、学校のプロジェクトは違うんだ」と懇願されたため話に乗ったので、可能な限り彼の意志を優先するようにしていました。

しかしプロジェクトが進むにつれ、現実的な数字を求める我々と、数字上良く見せたい本人の間でいさかいが絶えなくなっていきました。また彼は母国でグローバルの一般消費財メーカーに2年間勤め、一般労働者の倍の給料をもらっていたそうなんです。

そのためプライドも高く、「俺は一般人よりも高い報酬をとって評価されていたんだ。お前らとは違うんだ」と発言したり感情をコントロール出来ないタイプでした。そしてその発言に Nataly がブチ切れ、「お前はただ勉強が得意なだけだ。ビッグマウスで人望もない。お前が貰っていた給料も自慢するほどじゃない。なぁ Tada?」

「(うわっ、そこで俺にふる?)…、まぁ俺も言いたいこと山ほどあるけど今はとにかくタスクを先に片付けよう。もう疲れた。」とついつい本音を言おうものなら、

「何なんだお前!?いっつも大人ぶったり穏やかぶって。感情ないのか?」と6個年下にふっかけられる始末です。さすがにカチンときて「しんどい時ほど歯を食いしばって忍耐強く取り組むのがプロジェクトじゃないの?俺も Nataly も相当大人な対応してると思うけど、ものにも限度があるよ。やめる?俺本気だよ?」と自分もかなり大人気なく非現実的なこと(プロジェクトは後には引けない)を口走ってしまいました。

結局こんなことが他にも度々発生し、Facebook のメッセンジャーで喧嘩になったり、我慢の限界に達した Nataly が彼の頭をこづいたり(笑)、留学あるあるを体験することが出来ました。

しかし後になってみればこれは本当に良い経験で、海外で外国人同士が何かに取り組む際こんなことは頻繁に起こります。当たり前ですが、余裕がないときやヤバい状況では特にそうで、それは SUP の活動でもその後遭遇することが何度かありました。

もともと忍耐強い方だと自分では思っていましたが、それでも喧嘩をふっかけられれば「また言ってるわこいつ」で済ませられない精神的な弱さがあるなと自分の弱点を認識しました。

アンガーマネジメントは本当に大事ですね。


成績

成績は大きく分けて3つのレポートと授業態度から判定されます。試験はなしです。

・個別レポート(コース初期と終期)
・プロジェクト途中経過レポート(各章タスクの完成度)
・ビジネスプランの出來
・授業中の積極性

授業中の積極性という項目に「どこで測るねん」と違和感を感じましたが、このようなかたちで判定が下されます。ちなみに前述したピッチとプレゼンはここでは成績評価の対象になりません。それは同時進行で開講された科目 Successful Communication(消) と連携する形でピッチが開催され、起業家に必要なプレゼン能力の測定としてこちら(Successful Communication)に算入されるからです。

ちなみに(消)とあるからには、そちらの総評は先にバレバレですね。 

総評

◯(まる)です。授業そのもののボーリングさは凄まじかったですが、プロジェクト主体の科目であることと、前述した配布資料の質、フィードバックの質、それからプロジェクトを通して色々なことを経験したことより達成感があったからです。

ゆえに今でもアントレプログラムに残っているのだと思います。もちろん揉めまくった僕たちもプランを完成させ、無事パスしました。そして Business Plan Catalyst を通して僕たちは腐れ縁になり(僕は全く望んでいませんでしたが)、その後論文プロジェクトでまた揉めます … 。