新型コロナが大学生にとって深刻な問題となっています。

授業料を支払う親の給与カットや、大学生自身がアルバイト先を失い生活を賄えない状況が起こっているためです。

今現在、コロナ禍で困窮する大学生への国からの支援は明確に示されておらず、各大学が授業料の支払期限猶予や、お小遣い程度の支援を決めるなど、そのバラバラ感は否めません。

そしてそれらの措置は根本的な問題の解決には繋がらず、時間稼ぎでしかありません。

“あの議論” を真剣に始めない限りは。

 学費半額要望の意味

Photo: ANN NEWS

このままでは退学せざるを得ない学生が多数存在する中、先日「学費の減免(一律半額)」を求め2つの学生団体が要望書を政府へ提出しました。

この学生団体が「学費の一律半額」を求めた事実は非常に大きいと僕は感じます。

これは以前から新聞などでは取り上げられるも議論に上がらなかった、「大学授業料の高騰」への問題提起であるとも受け取れるからです。

では、日本の大学授業料はどのように高騰してきたのか?



 右肩上がりの大学授業料

Sourse: Benesse

こちらの図は Benesse が発表した国公立と私立大の「授業料+入学料」の推移です。

データ元は文部科学省で、集計初年度の1978年から国公立では4倍私立大では3倍弱(初年度納付金は3倍以上=私大総計)授業料が上がり続けてきたことが分かります。

一目で分かる事は、やはり「私立大はとんでもなく学費が高い」ということと、「国公立大の授業料が私立大に近付いてきている」ということでしょう。

この学費上昇トレンドは今なお続き、とりわけ国公立大の授業料高騰が目を引きます。

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Sourse: 神戸新聞

2018年に東京工業大が、文部科学省が省令で定める *標準額 を上回る授業料への改定を決めてことを皮切りに、その後東京芸大、千葉大、一橋大、東京医科歯科大が授業料の引き上げを決めました。

東京工業大を除く4校は上限の2割増の値上げを実施したかたちになります。

*国立大学は最大標準額(53万5,800円)2割増(64万2,960円)まで学費を引き上げられる。

大学全入時代の昨今、大学へ進学する学生の “割合” は増加傾向にあるも、それが少子化を補う “数” には至らず、以前として大学経営は厳しい競争にさらされています。

しかし、名の通った上位校へと学生が流れるトレンドは世の常で(少子化で志願者数が減った分より流れるインセンティブが働いているとも言える)、それら上位校は学費を上げても出願者数が減ることへの懸念がないということが見て取れます。

しかし、40年間学費が高騰してきた背景には何があるのか?

 高騰してきた大学授業料の背景

Sourse: 神戸新聞/主なOECD加盟国の教育機関への公的支出割合

「大学授業料の高騰は国の政策転換が要因になっている」と、日本総研経営戦略クラスター長・主席研究員の東秀樹氏は指摘します(SankeiBiz のインタビュー)。

東氏によれば、2004年に国立大学が法人化され、大学運営が受益者負担へと転換されたことが大きかったようです。

国立大学の運営費の多くを占める「(国の)運営費交付金」が財政難で年々下げられ、法人化された2004年度から2016年までの12年間で1,470億円(11.8%)の交付金が削減。

削減された分を大学は授業料の値上げで賄い、大学へ進学する本人(または家庭)にその負担が移ったという背景があります。

結果として、日本の教育機関への公的支出割合(対GDP)は2.9%と、OECD加盟国35ヶ国中最下位となっています(しかも3年連続)。

「国が教育を重要とは考えていない」と捉えられてもおかしくありませんが、要は “金がない” の一言に尽きるかと思います。



 授業料高騰を後押しする政府

それではこの授業料の高騰(国公立で)は現状から2割高で収まりそうなのか?

残念ながらその予測を否定せざるを得ないような、政府の発言や新たな政策がここ数年で見られます。

  • 2015年、文部科学省が「このまま交付金の削減が続くと、国立大学の授業料が31年度には年間約93万円になる」との試算を公表。物議を醸しすぐに火消しに急ぐ。
  • 2020年(2月)、国が標準額を定める国立大の授業料について、文部科学省は大学の裁量で金額を決められるようにする自由化」の是非について検討を始める。

大学授業料自由化に関しては、大学の学長や企業関係者らによる有識者会議が行なわれ、年内に結論を出すという目標が掲げられています。

国立大への交付金が減らされる中、自由化が実現されれば多くの大学が値上げに動くことが予想されるでしょう。

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各大学は企業からの委託事業や寄付金などで外部資金の獲得を進めるも、運営費交付金が減らされた現状では経営が厳しく、大学の事情に応じて授業料を値上げできる自由化を求める声が上がっていることが大きく関係しているようです。 

これ以外にも昨年から「専門職大学」という、従来の専門学校のパワーアップ版のような、修業年限を4年に延長した職業大学制度がスタートしました。

当然こちらも一般大学と比べ負けず劣らずの授業料が設定され、総じてこの国の高等教育は学費が高騰している、これからもしていく流れが出来上がっていると言えます。

 フィンランドで高騰する授業料について聞いた

先ほどの「OECD 加盟国の教育期間への公的支出割合」のグラフで、最下位の日本とは対岸に位置するのがノルウェーやフィンランドなどの北欧諸国。

よく取り上げられているように、これらの国もスウェーデン同様教育に関する費用は国が負担しています。当然大学教育は無償です。

昨年フィンランドで「先進国の授業料高騰問題」について、商店でアルバイトをする女性に意見をうかがったことがありました。

ヴィラメンさん:ええ、今大学生なんだけど、国からもらえる月々の500ユーロとここでのアルバイト代で生計を立てているわ。だから親には全く頼ることなく大学へ通えているの。

大学の授業料が無料っていうのは、言い換えれば親の心配をしなくていいってことだと思うの。自分の授業料のせいで、親が慎ましい生活を強いられることがないから。

それにもし大学へ行き出して、どうしてもその専攻が自分に合わない場合、親に迷惑かけられないって勉強したくもないものを耐え続けなければいけないわけでしょ?当然この国ではすぐにやめてしまえばいいから、学生が本当に興味のある学部に落ち着くことが出来やすい環境にあると思うの。

学費高騰の問題が日本でも起きていることは知らなかったわ。けれど、アメリカでは学生ローンがすごいことになっているって聞いたわ。カナダやイギリスなんかもそうね。

しかも、それだけ高い学費をローンまでして支払って卒業しても、望むような職に就けないことも問題になっているそうで、なんだか腑に落ちないわ。

北欧人からすると、どうしてそういうシステムを国が採用しているのかも、変えないのかも理解が出来ないけど、1つだけ分かるのはその問題が多くの途上国で最近浮き彫りになってきているという点ね。

 大学の授業料高騰は理にかなっていない

僕は自分が北米に1年以上住んでいた頃、多くの友人が学生ローンの返済に苦しんでいる様子を見てきました。そのため、学生ローンや授業料高騰の問題には相当敏感で強い違和感を覚えてきました。

ヴィラメンさんの言うように、学生本人とその両親の深刻な問題だと。

コロナ以前より、様々な特集で学生ローン破産が本人 → 親・兄弟へと連鎖していく様子を目にし、これは「奨学金」という言葉を使った詐欺のようなシステムだとさえ感じていました。全ては高騰しきった授業料がボトルネックになっているためです。そもそも払えない額まで高くなっているということです。

日本という国は「自己責任」という言葉が重んじられる、文字通り自己責任社会です。

教育が無償ではなく各世帯が各々負担するようになったのも、「自分でお金を貯めて自分で支払う」自己責任観からきたのかもしれません。

しかし、果たして今この自己責任が可能な世の中なのでしょうか?

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Sourse: Benesse

誰もが正社員で、給料は毎年上がり、ボーナスも安定、勤め上げれば高額な退職金が支給され、学費も安い。しかも各種税金や社会保険料は現在より低いもしくは発生しなかった経済成長期。

一方で正社員率が5割に近づき、賃金は伸び悩み、ボーナスは不安定、転職が当たり前で退職金制度のない企業もあり、学費は超高騰。税金は上がり続け、各種社会保険料も高止まりの現在。

これだけ生活に差が出来るほど変化してしまったお金の貯まらない世の中、さらに追い討ちをかけるように授業料が上がっていくというのは、そもそも社会が正常に成り立っていない、自己責任を負いたくても負えない状況だと僕は考えます。

始めの話に戻りますが、新型コロナウイルス禍で学生への金銭的援助が議論されているようです。

しかし、それは一時の時間稼ぎにしかならず、国民がゆとりをもって生きていくためには、そもそも高騰しすぎた学費を大幅に下げ、金銭的なゆとりを与えることが第一ではないでしょうか?

そしてその実行のためには、国は教育にしっかりとお金を出すべきで、財源の確保についても(やることを前提にした)真剣な議論が始められるべきなのです。

それは一部のみを対象にした給付型奨学金や学費の減免ではなく、若者が平等に学ぶ機会を得られる「一律学費の引き下げ」だと、高騰した授業料に苦しむ北米人と金銭的負担に縛られない北欧の若者達を見てきた僕は考えています。

*教育無償化を提言した井手英策氏について、後日取り上げたいと思います。

*スウェーデンに留学・ワーホリ・移住予定の方向けの、スウェーデンの生活にまつわるページを設けました。子育て、教育費、給料、税金、不動産売買、などなど包み隠さずお話しています。見て損はさせません。

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